HRテックの対象業務と導入効果を徹底解説!普及背景と企業が活用するメリットとは?
情報通信技術を最大限活用して産業の各分野に於けるイノベーションを実現しようとする試みは「X-Tech(クロステック)」と呼ばれています。
十数種類の分野に於いてそれぞれのアプローチが展開されていますが「HRテック」もその中の一つの分野です。
HRテックがどんな形で浸透しているのか、導入効果やそのメリットなどを周辺環境と共に深く掘り下げてみましょう。
HRテックの意味
人材を意味する「Human Resources」と技術を表す「Technology」を組み合わせたものがHRテックになります。
採用・評価・育成・勤怠管理など人事管理業務の各局面に於いて最先端のテクノロジーの活用により最適解を求めるアプローチがHRテックです。
そのためにはAIやデータ解析などのコアテクノロジーが不可欠となりますがそれに関しては後ほど説明します。
いずれにせよ「データ」と「テクノロジー」の2つがHRテックのキーワードです。
HRテックは世界的なムーブメントで、1998年以降「HR Technology Conference & Exposition」と題するカンファレンスが毎年開催されています。
こうした動きに対し日本では雇用の流動性が低いという事情もあって、これまで大きな盛り上がりを見せるものではありませんでした。
そんな中、少子高齢化に伴う労働力不足や働き方改革などの社会的要請によって、そのニーズは日本国内でも急速に高まりつつあります。
HRテックの歴史的変遷
今でこそ定着した感のあるHRテックですが、これまで辿った歴史を振り返ってみると数次のステップを経て変遷を示しています。
時系列的に見ると概ね次のような段階です。
- 組織や個人の業績管理などのデータを記録することが中心の時代
- 採用・研修・能力開発を促がす機能の開発
- 社員自身が活用できるクラウド型システムへの移行
- ネットワーク中心で生産性向上を図る仕組みを構築
テクノロジーの進歩と歩調を合わせながら、変革を続けてきたといえるでしょう。
HRテックの背景にあるもの
HRテックの現在の姿は時代の要請を反映したものでもあります。「働き方の多様化への対応」と表現できるものです。
2019年4月より「働き方改革法案」が施行されました。
この法案の成立過程に於いては、少子高齢化の進行による労働力人口の減少が大きな社会問題として取り上げられていました。
育児や介護との両立を迫られる世代をサポートするためにも「働き方の多様化」は不可避のテーマとなっています。
働きやすい環境作りが全ての企業に求められる時代です。そのことは内閣府が実施する「働き方意識調査」の結果を見ても明確に示されています。
その為の具体的な方策として検討されたプログラムは次のようなものでした。
フレックスタイム制の導入
始業・就業時刻と労働時間を働く人自身が決めるシステムがフレックスタイム制です。
それまでこの制度の清算期間は1か月でしたが、2019年の法改正により3か月となりました。より柔軟性の高い制度となっています。
時短勤務
2009年に定められた育児・介護休業法によって企業には短時間勤務制度の導入が義務付けられました。
常用労働者以外で3歳未満の児童を育てる従業員は、希望すれば1日の所定労働時間6時間の短時間勤務を選択することが出来るようになっています。
男性・女性いずれも選択可能な制度です。
テレワーク
テレワークのテレ(tele)は離れた場所を意味しています。
雇用型と非雇用型に分かれており、雇用型に含まれるのは在宅勤務、モバイルワーク、ワークスペースです。
非雇用型はSOHOや内職副業型のパターンを含みます。
副業兼業
従業員が企業の業務以外の副業に従事することを認める仕組みです。
働く人の収入を増やすだけでなく、企業にとっても人材の流出防止、外部のノウハウ・スキルの取り込み、人脈作りなどのメリットが想定されます。
有給取得推進
2019年4月より「有給休暇取得の義務化」が労働基準法によって定められました。従業員にとって働きやすい環境を整えるための一つの施策です。
企業にとってのメリット
HRテックによって働き方の多様化への対応を図るということは雇用される側だけでなく、雇用する企業側にとってもメリットをもたらします。
次に挙げるのはその例です。
優秀な人材の確保
働く時間や場所の選択肢が増えればこれまで育児や介護がネックとなって働けなかった人材を働く場に呼び戻すことができます。
働き方に柔軟性が生まれることは優れた人材の確保に直結しているといえるでしょう。
生産性向上
テレワークの導入効果は通勤時間の短縮だけでなく通勤に伴うストレスも軽減し、結果として業務の効率化・生産性の向上に寄与するものです。
コスト削減
働き方に柔軟性を持たせることはオフィスのユーティリティコスト、通勤費などの削減に繋がります。
又、働きやすい環境を提供することは従業員の定着率を高めると同時に、採用コストの削減にも結び付くものです。
従業員満足度の向上
人事データの可視化や従業員の企業に対する愛着心の数値化などによって人材配置の適正化を促し、結果として従業員の満足度をアップさせます。
X-Techの定義
繰り返しになりますが、「情報通信技術によるイノベーション」と言われる「X-Tech」は産業界全体の動きとして進行しています。
ICTつまり「Information and Communication Technology」を訳したものが情報通信技術です。
X-Techとは情報通信技術の進化を取り込んで産業構造に変革をもたらすものと考えていいでしょう。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれることもあります。
産業界全体で広く受け入れられることを企図して2018年に経済産業省は「DXレポート」及び「DX推進ガイドライン」を発信したほどです。
産業構造へのアプローチですから、業態により様々な取り組みがなされており、個別に観察することで本質が見えてきます。
HRテックへの理解を深めるために、産業界全体を包むX-Techについて詳しく解説します。
X-Techの各分野とHRテック
デジタルテクノロジーの高度利用によって新しい価値や仕組みの創造に取り組むものがX-Techですが、その形態は分野によって様々です。
HRテックもそのひとつを構成するものですが、他の分野にあっても興味深い試みが実践されています。
どんな分野に於いてどのようなソリューションが提供されているのか、主な事業分野を抜き出して簡単にまとめました。
Fintech(フィンテック)
金融の分野を対象とするものです。モバイル決済は代表事例となります。
MedTech(メドテック)
ネット予約、電子カルテ、投薬管理などを始めとする医療分野でのサービスです。
Retech(リーテック)
不動産業界を対象としたもので、土地の分譲や物件探しなどに活用されます。
AdTech(アドテック)
電子媒体を通じた広告をアドテックと呼びます。広告配信の最適化を行うものです。
HealthTech(ヘルステック)
健康に関する各種アプリが開発されており睡眠サイクル管理やニコチン依存症対策などの他、認知症対策アプリなどが代表的です。
因みに認知症対策アプリの機能には認知症の診断や脳トレクイズの出題による脳細胞の活性化などが含まれています。
EdTech(エドテック)
ペーパーレス授業、サテライト授業などの教育プログラムです。英会話用ロボットの導入なども開始されました。
AgriTech(アグリテック)
農地や農作物のデータ管理などに用いられています。
CleanTech(クリーンテック)
電力の流れを最適化する送電網、スマートグリッドが有名です。再生可能エネルギーの供給にも利用されます。
GovTech(ガブテック)
GovTechは海外での事例が目立ちます。高齢者の安否をモニタリングするセンサーやIDによる行政サービスの提供などです。
FoodTech(フードテック)
「食」とテクノロジーの融合がFoodTechです。
インターネット経由で冷蔵庫内の食材を管理し発注まで連動させる、スーパーなどの販売店での食品ロス防止に役立てるなどの実例があります。
ここに披露した実例はX-Techの分野の中のほんの一部に過ぎません。多くの分野で革新的な取り組みが生まれていることが想像できます。
HRテックを支えるテクノロジーやツール
HRテックに話を戻しましょう。HRテックも複数のコアとなるテクノロジーによって成り立っていますので、個別に取り上げてみます。
AI
AI(artificial intelligence)は直訳すれば人工知能です。膨大なデータを相手にして瞬時に演算処理を行う計算機能というイメージがありました。
しかし理解・学習・推論などこれまで人間にしかできないと考えられていた分野にあっても人間に取って代わるべく進化を見せています。
HRの領域に於いても人材のスクリーニングなどでAIの持つ「知性」を活かした貢献が期待されています。
クラウド
クラウドという仕組みは従業員をオフィスに縛り付けることから解放してくれるものです。
ビッグデータの取り扱いやデータセキュリティの精度向上などの面でも重要な役割を果たしています。
SNS
企業内でのコミュニケーションツールとしてだけでなく、社会との接点や情報の取り込みなどが内部のコミュニケーションギャップを補完するでしょう。
ビッグデータとしての人材データの解析
履歴書や職務経歴書などのデータ管理はもちろん、退職予測やソーシャルメディアでの行動把握まで広範に亘る解析に利用できるものです。
モバイル
単なる情報ツールとしての機能を越えて、募集・応募・面談まで就職活動全般をサポートします。
HRテックが提供するサービス
ここまでHRテック全体の概観について説明しました。ここからは個別のツールがどのような業務に利用されているのかを紹介します。
採用
最初は採用活動に伴うサービスですが2つのタイプを取り上げてみましょう。
「HireVue」というデジタル面接プラットフォームがあります。2004年に米国で開発されました。動画ライブ形式の採用面接をWeb上で行うツールです。
更に選考プロセスをサポートするために、AIによる選考支援機能を用いて言葉・音声・態度のパターン分析を経てスクリーニング業務を遂行します。
認知能力測定機能も備え、作業記憶や数値推論、空間認識などの能力を測定し、採用後のパフォーマンスの期待値まで示すことが可能です。
一方、ATS(Applicant Tracking System)という採用管理ツールがあります。
応募から採用に至る一連のデータを一元管理するもので、クラウド型も現れました。
国内のものだけでも「HRMOS」「Talentio」「SONAR」など多数登場しています。採用プロセスの効率化に寄与する機能群といえるでしょう。
エンゲージメント
ここでいうエンゲージメントとは、従業員と会社との好関係のことです。そのためのツールもいくつか提供されています。
毎月従業員が質問に回答することでコンディションを解析し、課題解決の助けとする「Geppo」というツールがあります。
従業員のコンディションの把握や課題の解決に力を発揮するものです。
組織診断や目標設定をサポートする「モチベーションクラウド」というツールがあります。
又、従業員の経験値の把握や満足度調査のための「Calture Amp」などのツールも知られています。
従業員のエンゲージメントを可視化し、これを高めるための助言も行う「GLINT」というプラットフォームなどもこのグループに入るものです。
労務管理
「SmartHR」というクラウド型のソフトがあります。
雇用契約から社員名簿、入退社手続きなどをペーパーレスで遂行し、社会保険・雇用保険の手続きを自動化しているものです。
役所への申請手続きもWeb上で実行します。
米国製の「Zenefits」というソフトは中小企業向けに作られています。給与計算・勤怠管理・健康保険などをまとめたクラウドサービスです。
給与管理
年末調整の関係書類や給与明細もペーパーレス化が進められています。
先ほどの「SmartHR」というソフトでは給与明細はパソコンやスマホで受け取る形式です。
人材教育
オンライン学習サービスを提供してくれるのが「Schoo」というツールです。英会話・一般教養・ビジネススキルなどの学習を推進します。
導入効果
HRテックが情報通信技術の活用を通じて人事の分野全般に対するソリューションを提供するものであることは認識できました。
ではそれらの具体的な導入効果は何なのか、いくつかの側面から掘り下げてみましょう。
業務効率改善
最初のわかりやすい効果としては、従業員をオペレーション業務から解放してくれることです。
給与計算・勤怠管理などの定型業務を効率的に吸収し、要員効率を向上させる効果が期待されます。
人的資源の適正配置
個人の特性・個性を解析し、適正配置計画や育成のための教育プログラムまで提供します。
優秀な人材の確保のための効果的なソリューションとなるでしょう。
従業員満足度の向上
コミュニケーションツールの活用を通じた円滑な人間関係の構築を実現します。
ビジネスストレスの解消や従業員の定着率の向上、或いは離職率の低下へと導いてくれるものです。
HRテックの未来型
これからの時代はあらゆる局面に於いて少子高齢化を背景とする労働力の不足と対峙しなければなりません。
HRテックのような進化するテクノロジーに対する期待値が高まるであろうことは容易に想像されます。
一方でそれを運用する人間の側の「戦略眼」が試されていることも、しっかり自覚しておきたいですね。