X-Tech(クロステック)とは?X-Techの定義、事例を解説!ITとの組み合わせでどんな新しい価値が生まれる?
X-Techという言葉があります。
クロステック若しくはエックステックと呼ばれるものですが、意味するところは「IT技術の活用を基軸とした産業界全体を包むイノベーション」ということです。
X-Techとは何かその実態を解明すると共に、IT技術を背景とした新しい価値の創造のプロセスに迫ります。
X-Techの定義と範囲
X-Techという概念は産業界全体に波及していますがその形態は様々です。
共通しているのはテクノロジーの高度利用によって新しい価値を創造したり、今までに無かった仕組みを提供したりすることです。
一言で表現すると「情報通信技術によるイノベーション」でしょうか。その実態を解明するには産業分野毎にアプローチしてみる必要があります。
X-Techを生んだ背景
総務省は公式サイトに於いて「ICTの進化とそれを各産業分野で積極的に取り込んだことが、今日の産業構造の多様化をもたらした」と表明しました。
ICTは「Information and Communication Technology」の略語ですが、ITの真ん中にコミュニケーションを挿入しています。
日本語訳は「情報通信技術」です。
例えば医療や教育の分野にあっては、固有の技術の伝え方や方法論まで包括する概念としてICTを捉えています。
単なる情報処理技術のみならず、コミュニケーションを重要視していることを示していて、それが今の世の中のトレンドとなっている点に注目すべきです。
デジタルトランスフォーメーションとテクノロジー
X-Techの説明に於いては「ICTの進化が産業構造の変化をもたらした」との認識が示されました。
これは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」といういい方で表現される場合もあります。
「デジタルテクノロジー」による企業内部での新たな価値の創造であり、X-Tech(クロステック)と同義語と考えていいでしょう。
デジタルトランスフォーメーションが産業界で広く受け入れられることとなった一つのキッカケがあります。
2018年に経済産業省が発信した「DXレポート」及び「DX推進ガイドライン」です。
「DXへの取り組みが遅れると大きな経済的損失を生むことになる」として警鐘を鳴らしました。
それ以降の2年間で従業員500名以上の国内企業の63%がDXへの取り組みを開始したといわれています。
それを支えるデジタルテクノロジーについて知ることはX-Tech(クロステック)に対する理解を深める上でも決して無駄にはなりません。
デジタルテクノロジーは次の4つの要素により構成されていますので概要を紹介します。
IoT
ICTが情報通信技術であるのに対して、IoTはモノのインターネットと呼ばれます。
モノと人とサービスを繋ぐ基盤です。「Internet of Things」の略語がIoTです。
従前のインターネットはコンピューター同士を接続するものでした。
IoTはモノ、例えば工場の機械や家のドアなど、これまでのデジタルデバイスとは違う媒体をセンサーや通信機能によってネットの内部に取り込むことです。
AI
AIとは「Artificial Intelligence」の略語で直訳すると人工知能です。
元々は少子高齢化社会の到来により労働力の不足が深刻化することへの補完として捉えられていました。
一歩進めてデジタル化社会の進行に伴って生じるビッグデータの処理・分析のためにはAIの力が必須となるでしょう。
ロボティクス
デジタルテクノロジーをモノに実装することがロボティクスのコンセプトです。
これまで単なるモノとして認識されていた、自動車、ドローンなどのメカとデジタルテクノロジーとの融合を意味しています。
セキュリティ
モノや人を含めたデジタル化が進行するとセキュリティを確保することの重要性が格段にアップします。
この分野では「ブロックチェーン」という言葉も生まれました。ブロックというデータの単位を鎖のように保管するという意味です。
Society 5.0
1995年に制定された「科学技術基本法」という法律があります。我が国の科学技術に関する基本方針をまとめた法律です。
5年毎に改定されますが、その第5期を「Society 5.0」と呼びます。
デジタルテクノロジーをフルに活用して日本の社会が抱える課題をクリアしょうという取り組みがSociety 5.0に集約されています。
それを支えるテクノロジーが先ほどの「IoT・AI・ロボティクス・セキュリティ」の4つです。
この取り組みは2000年制定の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」や総務省発行の「IT政策大綱」に盛り込まれたコンセプトとも一致します。
プラットフォーマー
X-Techの基盤となるデジタルテクノロジーを社会に提供している企業群があります。「プラットフォーマー」と呼ばれている集団です。
個性的な企業ばかりなので個別に紹介しましょう。
Apple
Appleの正式名称は「アップルインコーポレイテッド」です。2007年以前はアップルコンピューターという名称でした。
米国に本社を置く多国籍企業で、ソフトウェア、インターネット関連製品及びデジタル家電を扱っています。
iPhone、iPad、Macintoshなどの提供者として世界中に知られています。創業者はスティーブ・ジョブズです。
Googleとして世界中で知られていますがGoogle LLCが正式名称となります。
ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという2人のスタンフォード大学院生によって1998年に設立されました。
主力事業である検索エンジンをサポートするサーバーの数は100万台ともいわれます。
Amazon
正式名称はAmazon.com, Inc.(アマゾン・ドット・コム・インク)となります。
米国のシアトルに本拠を構えて、独自のマーケット・サイトの運営、Webサービスの提供を手掛ける企業です。
1994年に設立され、IT業界では支配的な地位を築いています。
Microsoft
Microsoft Corporationも米国の企業で本社はワシントンにあります。
1981年に設立されたコンピューターソフトの開発・販売を行う多国籍企業であり、創業者のビル・ゲイツはあまりに有名です。
International Business Machines Corporation、いわゆるIBMの製造するパーソナル・コンピューターの上で動くOSの開発により急成長しました。
X-Techとビジネスモデル
X-Techは実際のビジネスモデルに組み込まれるものですが、そのモデルは4つに類型化されています。
物販サービスモデル
顧客ニーズの多様化をフォローするためニーズや購買履歴を分析し、提供する商品やサービスに反映させる取り組みです。
ユーザーの属性データに基づいてマーケティングを展開することになります。Amazonなどが好例です。
マッチングモデル
比較的中規模・小規模の事業者とユーザーとのマッチングモデルです。Uberによるタクシー配車サービスなどの例があります。
お知らせモデル
異常を感知して伝えてくれるサービスが「お知らせモデル」になります。
このサービスにはIoTデバイスのデータが有効活用されています。例えば家電消費電力をモニターし、消費パターンの様子を教えてくれます。
アドバイスモデル
属性や行動履歴を把握してアドバイスを提供するモデルです。体重・食事・睡眠などのデータを基に、ヘルスケアに関する助言が貰えます。
各産業分野に於ける事例
ここまでX-Techの対象領域は幅広くて様々な産業分野に浸透していることを紹介しました。
各分野に於ける具体的な取り組みについてここから個別に解説します。
尚、それぞれの名称には「Technology」を表す「テック」という言葉が付けられている点に注目して下さい。
Fintech(フィンテック)
金融を意味する「Finance」との組み合わせです。Fintech(フィンテック)は守備範囲が広いという特徴があります。
送金・決済・融資・投資など多方面をカバーしています。モバイル決済などが代表例ですね。
Retech(リーテック)
不動産のReal Estateとの組み合わせです。土地取引や物件検索などに利用されています。
AdTech(アドテック)
「Advertisement」つまり広告のことです。電子媒体の広告が紙媒体のものに取って代わろうとしています。
MedTech(メドテック)
Medicalという医療を示す言葉との組み合わせがMedTech(メドテック)です。
MedTech(メドテック)は後で詳しく説明しますが、インターネットによる診察予約、電子カルテ、投薬サービスなどに利用されています。
パソコンやスマホを用いたオンライン診療も話題となっているようです。
HealthTech(ヘルステック)
Healthcare(ヘルスケア)との組み合わせですが、MedTech(メドテック)に似ています。
薬事法改正によってソフトウェアも医療機器として認識することとなり、ヘルスケアの概念も大きく変わろうとしている最中です。
ニコチン依存症対策アプリや認知症アプリなども開発されました。
高齢化社会が進行する日本では医療費の抑制や医療従事者の確保という難題に直面しています。
これらの課題を乗り越えるためにHealthTech(ヘルステック)というコンセプトへの期待感が年々高まっているといって良いでしょう。
EdTech(エドテック)
Edは「教育」を意味するEducationが語源です。
インターネット環境を利用したサテライト授業やタブレット端末を用いたペーパーレス授業などは既に実用化されています。
新時代の教育スタイルを目指しているコンセプトですね。
AgriTech(アグリテック)
Agriculture(農業)から来た言葉です。生産量データの管理だけでなく、ドローンを使った農地の現状把握なども始まりました。
GovTech(ガブテック)
ガブはGovernment(政府)です。デジタルテクノロジーを政府の仕事に組み込んで、行政サービスをより良いものに進化させます。
大きな取り組みとしては「スマートシティモデル事業」が挙げられるでしょう。
地方創生の切り札として、地方自治体のスマートシティ化を支援する活動です。地方に於ける人口減少に歯止めをかけることが期待されています。
SportsTech(スポーツテック)
文字通りスポーツとテクノロジーの融和を表現しています。こちらも幅広く対象領域をカバーするものです。
競技者のデータ可視化やトレーニング効率の向上、映像サービスによる競技の公開やレフリーの補助、アプリによる動画配信など多岐にわたります。
これらの動きはスポーツ産業全体を活性化させるものであり、政府が打ち出した「日本再興戦略」の柱の一つとして認知されているものです。
FoodTech(フードテック)
食とテクノロジーの組み合わせがFoodTech(フードテック)となります。フードテックの場合は、5つの挑戦テーマを掲げています。
- 無人農場、新素材開発による将来的な世界の食料不足解消
- 食品ロス、食料保存など管理手法改善による飢餓問題への取り組み
- 代替ミート開発による菜食主義への支援
- スマート農業、ロボキッチンなどによる農業・外食産業・食品製造業などの人材不足問題解消
- 食品腐食診断ツールや梱包材開発を通じた食の安全への寄与
又、将来的にFoodTech(フードテック)が取り組むべきテーマとして育児の問題が浮上しています。
- 粉ミルクの温度管理
- 哺乳瓶への充填
- 哺乳瓶の洗浄・消毒
- 飲食店での離乳食の提供
- 粉ミルクに代わる液体ミルクの開発
これらは実際に育児と向き合うママさんたちの切実な願いであり、喫緊の課題といえるかもしれません。
Fintech(フィンテック)の具体的なサービス
各事業分野に於けるX-Techの実情を追ってきましたが、中でも金融の分野には多くのビジネス形態が含まれています。
Fintech(フィンテック)の中にあるサービスタイプの例をいくつか紹介します。
スマートペイメント
現金や銀行での処理を除いた電子決済のことです。カード決済とQRコードの2種類です。
仮想通貨
国家によって価値を保証されたものが通常の通貨ですが、仮想通貨にはそれがありません。代表的なものはビットコインやリップルです。
クラウドファンディング
プロジェクトへの資金提供者を募集するもので、リターンを求めない「寄付型」と求める「購入型」の2種類があります。
ソーシャルレンディング
クラウドファンディングに似ていますが、金融商品を対象として投資家に分配する形を採っています。
投資・資産運用・ロボアドバイザー
AIを用いた金融商品の選定、運用先のバランス配分決定などのアドバイザリーサービスを提供するものです。
MedTech(メドテック)と応用技術
先ほど紹介した「Society 5.0」では遠隔医療や遺伝子解析などが個々の人間に向けた医療や医薬品の提供に寄与することが表明されました。
既に「医薬品医療機器等法」にあっては、機械器具とコンピュータープログラムを診断・治療・予防に役立てる「医薬品」として認定さえしています。
この分野に於けるデジタルテクノロジーの導入事例には次のようなものがあります。
画像診断
アルツハイマーに直結する脳の収縮や脳動脈瘤の状態などの画像解析を行います。医師不足に悩む地域などをサポートできる仕組みです。
生活習慣病リスク予測
時系列分析や病気の発症確率の予測などを行うものです。
インフルエンザ流行予測
「ARGONet」という手法を用いて、インフルエンザの流行を予測します。予防接種の普及に役立てようとする狙いがあります。
医療診断アプリ
スマートフォン用のアプリで、AIを搭載したチャットボットに症状を伝えて診断を仰ぐシステムです。
診断結果によって診察予約まで遷移することが可能です。医師不足解消や待ち時間短縮の効果が期待できます。
ネイル型センサー
爪の状態や握力などを測定し、健康状態を診断する仕組みです。統合失調症や心血管などの診断に役立てることができます。
X-Techによる社会への貢献について
X-Techが全産業の生産性向上へ多大な貢献を成し遂げていること、私たちの暮らしの利便性を飛躍的に高めていることは実感できたと思います。
国を挙げての取り組み姿勢についても充分窺い知ることができました。
しかし皮肉なことですが、それらが少子高齢化と労働力不足に悩む日本の現状を浮き彫りにしているのも事実です。
この世界のエンジニアの方であれば、デジタルテクノロジーを突き詰めた先にある未来社会との関わり方に対しても目を向けておきたいですね。