アドテクの仕組みと特徴を徹底解説!種類と効果的な活用法とは?
我が国の産業界ではICTと呼ばれる情報通信技術の高度利用によって様々な新しい仕組みを提供することを「X-Tech」(クロステック)と呼んでいます。
因みにICTは「Information and Communication Technology」の略語です。「情報通信技術」と訳されている言葉になります。
これから紹介する「アドテク」はシステム化された広告配信を意味していますが、X-Techの中の一分野を構成しているテクノロジーと理解して下さい。
X-Techとアドテクの関係
「アドテク」について掘り下げる前に、まず「X-Tech」の全体像に迫ることから始めましょう。代表的な9つの分野に於けるテクノロジーを紹介します。
Fintech(フィンテック)
金融を意味する「Finance」の分野のテクノロジーで、送金・決済・融資・投資など多方面をカバーします。代表例はモバイル決済です。
Retech(リーテック)
土地取引や物件検索などに利用される不動産業界固有のサービスです。
MedTech(メドテック)
Medicalは「医療」を意味し、ネットによる診察予約・電子カルテ・投薬サービスなどが含まれます。
HealthTech(ヘルステック)
ニコチン依存症対策アプリや認知症アプリなどが代表的です。医療費の抑制や医療従事者の確保といった課題への側面支援が期待されます。
EdTech(エドテック)
Education=教育が語源で、タブレット端末を用いたペーパーレス授業、サテライト授業などで実用化が進められています。
AgriTech(アグリテック)
アグリは農業のことを意味します。生産量データや農地の管理などに役立てられているものです。
GovTech(ガブテック)
ガブはGovernment(政府)を意味するもので、行政サービスのシステム化を企図しています。
「スマートシティモデル事業」への取り組みも始められました。
SportsTech(スポーツテック)
スポーツ産業全体を幅広くカバーするもので、競技者のデータ管理に始まって競技画像によるレフェリング、動画配信など多岐にわたります。
FoodTech(フードテック)
フードテックもスポーツテック同様、守備範囲の広さに特徴があります。
新食材模索、管理手法改善による食品ロスの防止、ロボキッチン、食の安全を図るための食品腐食診断ツールの開発など多種多彩です。
これらを踏まえた上で「アドテク」にFocusしてみましょう。果たしてどのようなテクノロジーが展開されているのでしょうか。
アドテクとは
アドテクとは「Advertising Technology」を略した言葉で、アドテクやアドテックなどと呼ばれています。
報通信技術をフル活用して広告配信のシステム化・最適化を図ろうとする仕組みです。
アドテクという仕組みは広告主、メディア双方に対して明確な目的をもっています。
広告主側では最も届けたい相手に効果的な広告配信を行うこと、掲載するメディア側では最適な広告主に広告枠を販売することです。
そのミッションを達成するためにアドテクには複数の種類が存在していますが、それに就いては後ほど詳しく解説します。
アドテク誕生の背景
1994年に米国の大手電話会社AT&T Inc.はオンラインマガジンに世界初のバナー広告を掲載しました。
それ以降、世界のネット広告の市場規模は急拡大を遂げることとなります。
一方で広告をベタ張りする際の操作ミスやメディア側の工数の大幅な増加など、新たな問題も発生しました。
それらを一気に克服し、フレキシブルな管理体制と広告配信の最適化を図るべく誕生したのがアドテクというテクノロジーです。
アドテク以前の広告手法
アドテクが普及する以前の広告は「純広告」と呼ばれる手法が主流でした。これはメディアが提供する広告枠を買い取るというスタイルの総称と考えて下さい。
純広告にも種類がありますので、要約して紹介します。
マイページジャック広告
ポータルサイト上のページをあたかもジャックしたかのように流す広告で、動画、アニメなどが使われるものです。
バナー広告
リンクの貼られた画像を掲載し、その画像をクリックすると広告主のサイトへ遷移する仕組みです。画像は静止画、動画どちらにも対応しています。
記事広告
記事形式の広告を配信するものです。
テキスト広告
文章形式の広告がホームページ上に表示されます。文章をクリックすることで広告主のホームページに誘導されます。
動画広告
文字通り動画で配信される広告です。
メール広告
こちらも文字通りメール形式で配信される広告です。
これらの広告スタイルは「期間保証型」「クリック保証型」「クリック課⾦型」「成果報酬型」などの契約形態を持っています。
アドテクの特徴
アドテク登場以前の純広告の時代と比較してアドテクには次のような特徴があります。
- 多くのサイトに掲載することにより、トラフィック量を大量に確保できる。
- 広告を掲載するサイトと個別に契約を締結する手間が省ける。
- 課金形態の統合管理が可能。
- 特定の人をターゲットとした広告配信が可能。
- 広告の配信効果を測定できる。
こういった特徴の数々はアドテクのサービスの種類毎に現れるものなので、充分吟味した上でテクノロジーを活用することが大切です。
アドテクに関わるサービスの種類と仕組み
アドテクは「広告配信の最適化ツールです」と繰り返し説明しました。
最適化のためには目的やテクノロジーを利用する人の立場の違いにより、サービスの質を変化させなければなりません。
サービスの種類をカテゴライズして紹介します。最初は広告を掲載する媒体であるメディア側のサービスです。3種類あります。
アドネットワーク
広告配信の一元管理を行うサービスがアドネットワークです。
広告枠が複数のメディアに跨ることも珍しくありませんが、個別契約単位での配信設定をする手間を省くことが出来るようになりました。
アドエクスチェンジ
複数の広告枠を自由に売買するためのサービスです。入札型インプレッション課金というルールがそれを可能にしています。
メディア側からすると、広告枠の販路拡大に寄与する仕組みですし、広告主にとっては一度の配信で複数のメディアに広告配信することが可能となりました。
SSP
SSPは「Supply Side Platform」の略で、メディアの収益を拡大するサービスです。
複数のアドネットワークの中から掲載費の最も高い広告を自動的に選択して配信する仕組みとなっています。
DSP
次に紹介するDSP、リターゲティング、DMPの3種類は広告主にメリットのあるサービスです。
DSPはDemand-Side Platformの略で、広告主の広告効果をMaximizeすることに主眼を置くものです。
予算やターゲット、広告の見た目などを設定して一元管理に委ねることで広告費用のMinimizeを図ってくれます。
リターゲティング
自社サイトを訪問したユーザーが他サイトへ移動した時に自社製品・サービスについての広告を配信する仕組みがリターゲティングです。
広告の再配信となるわけですから、その回数を分析することで効果測定も行えます。
DMP
正式名称はData Management Platformになります。
このサービスは例えば、自社サイトへの来訪履歴を持つユーザーに的を絞って広告配信を行うものです。
広告主にとっては費用効率の良いサービスと言えるでしょう。
RTB
RTB、PMP、CDPの3種類のサービスは中立的立場のサービスと言うべきでしょうか。
Real Time Biddingの略がRTBです。
広告表示回数であるインプレッション単位でオークションが行われ、落札者の広告が表示されます。
広告枠を高値で販売したいメディアと売上拡大を図りたい広告主の利害を一致させるためのサービスです。
PMP
Private Market Placeを略してPMPと呼びます。
RTBと仕組みは似ていますがRTBが完全オープンであるのに対し、PMPは参加できるメディアと広告主が限定されるものです。
CDP
Customer Data Platform即ち顧客毎の属性・行動データを蓄積・統合するプラットフォームがCDPです。
サイトへの訪問履歴以外に購買履歴、位置情報、アスキングデータなども含めて統合管理する点に特徴があります。
効果的活用方法
各種サービスの仕組みを把握できたところで、アドテクの活用方法についても見ておきましょう。
トラッキングレポート
トラッキングはユーザーの行動分析のことで、サイトの移動やコンバージョンなどを示すものです。
その結果に基づいて配信に関するチューニング即ち設定変更に反映させます。
ターゲティング
ユーザーの行動履歴を把握した上で閲覧履歴に関連する情報を付加したクッキーを送信すると共に、最適と思われる広告を配信します。
Real Time Bidding
アドテクでは従来のような広告枠を買い取る必要が無くなりました。
1インプレッションに対して入札を行うことで無駄な広告投稿の回避と広告費用の削減が図れます。
一元管理
アドテクの大きな特徴の一つは一元管理です。
コンテンツをアドサーバーと呼ばれる器に投入し、複数のメディアのサーバーに対して一括広告配信を行うことが可能となりました。
マーケティング戦略への活用
アドテクが目指す最適の広告配信実現のために「ユーザー分析」は一番重要な課題です。
そこに登場するのがDMP(Data Management Platform)というツールになります。
外部メディアのデータと自社で収集したプライベートデータとを融合させ一元管理・分析を行うことでデジタルマーケティング戦略へと展開するものです。
DMPで扱うデータは次の3種類に分類されます。
1st party data
自社サイトが保有するマーケティングデータです。サイトに搭載された解析ツールから得られるもの、アンケート、購買情報などが該当します。
情報は限定的にならざるを得ませんが、信憑性の高いデータです。
2nd party data
連携を組む他企業・グループから得られるデータのことです。契約上の問題や技術的な壁がありますが、1st party dataと同様、信憑性は高くなります。
3rd party data
第三者から提供されるデータは全てこの種類に含まれます。多岐に亘る情報をベンダーから得ることも可能です。
アドテクの成功事例
産業界に広く普及するアドテクですが、様々な局面に於いて活用されています。実際に導入されている成功事例をいくつかご披露します。
YouTube動画広告
最初に多くの人に馴染みのあるYouTube動画広告について取り上げてみましょう。ここでは3種類の広告パターンが使われています。
「TrueView動画」と「バンパー広告」はどちらもGoogleが運用する広告出稿サービスであるGoogleAdwordsが用いられているものです。
バンパー広告の方は6秒間のノンスキッパブル広告として知られています。
3つ目は「純広告キャンペーン」と呼ばれる予約制広告となります。30秒間のスキップ不可広告も特徴的です。
それぞれの課金形態ですが、TrueView動画は視聴課金又はクリック課金に拠ります。
バンパー広告はインプレッション課金、純広告キャンペーンは定額料金(CPD課金)が基本です。
ブランドリフト調査
広告の目的は「ダイレクトレスポンス」を求めることか又は「ブランディング」かの2通りと言われています。
ブランドリフト調査はブランディングを目的とした広告の効果を測定するものです。
ユーザーがサイトを訪問し広告を閲覧すると調査用のタグが発火して調査会社に送信され、広告接触者、非接触者の双方にアンケート送信がなされます。
その回答から広告効果が測定される仕組みです。
ターゲティング広告配信メニュー
クレジットカードのクレディセゾンとアドテクのベンダーであるオムニバスが共同開発したのがターゲティング広告配信メニューです。
年齢、性別、居住地、家族構成などの登録属性、カードによる購買履歴といったデータをフル活用しながら精密なターゲティングを展開しています。
基礎知識とおすすめ資料
順序は逆になりますが、アドテクについて初めて学ぶ方のために基礎的な用語の解説を付け加えます。
それと共におすすめの学習教材についてもご紹介しましょう。まずは用語から。
- メディア:媒体。サイトやWebマガジン自体及びその運営者。
- 広告主:広告をメディアに掲載して商品やサービスを宣伝したい立場の人・組織。
- ユーザー:ネットを通じてメディアを閲覧する人。商品・サービスの購入者。
- クッキー:サイト訪問者のコンピューターにデータを一時的に書き込んで保存させる仕組み。
- コンバージョン:商品購入・サービスへの加入などの行為。成果。
- アドサーバー:ネット広告の配信を司るWebサーバー。
学習用教材に付いては次の3点を取り上げてみました。
アドテクノロジーの教科書
急成長するアドテクの市場やそれを支えるテクノロジー、成長の歴史や複雑化している業界地図などを紹介する教材です。
基礎的知識や業界の実情などを中立的立場から描いているテキストと考えて下さい。
広告主としての企業担当者、デジタル分野への進出を図る代理店などにおすすめしたい一冊となっています。
広瀬信輔著。SHOEISHA。
THE AD TECHNOLOGY
アドテクに関するキーワードの紹介、データマーケティングの基礎について書かれた書籍です。アトリビューションの概念についても触れられています。
マーケティング業界で働く人に向けたメッセージがまとめられた一冊です。
菅原健一・有園雄一・岡田吉弘・杉原剛共著。SHOEISHA。
ネット広告がわかる基本キーワード70
ネット広告の世界で飛び交う略語、難解な専門用語などを初心者向けに分かり易く解説しています。
言葉や技術などの素朴な疑問をすぐ解決してくれる入門書です。
MarkeZine編集部著。株式会社サイバー・コミュニケーションズ監修。
これからのアドテク
国内のネット広告の市場規模は2015年以降拡大を続け、5年間でほぼ倍増の2兆円規模にまで膨れ上がると予想されています。
それに連れてアドテクを取り巻くテクノロジーも一段の進化を遂げるに違いありません。
2020年はコロナウィルスとの闘いに明け暮れる年となり、「在宅勤務」や「テレワーク」という単語も世の中にすっかり定着したようです。
ただ、これを克服したとしても次は「アフターコロナ」に立ち向かわなければなりません。
私たちは、アドテクの未来形「ポスト・アドテク」に対する備えにも万全を期しておきたいですね。