SAPという名前は1972年の創業時に付けられたドイツ語で「Systemanalyse und Programmentwicklung」の略です。

システム分析とプログラム開発を意味しています。

その後、「Systeme, Anwendungen und Produkte in der Datenverarbeitung」という名称に変更されました。

総合業務アプリケーションソフトとしての名称になりますが、このソフトを提供する会社名でもあります。

フランクフルトとニューヨークの両証券取引所に上場していて、会社形態は株式会社ですので正式名称は「SAP株式会社」となるでしょう。

SAPについての基礎知識や使い方、特徴、関連製品のラインアップなど幅広く紹介します。


SAP株式会社

SAP株式会社」の本社はドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州にあるヴァルドルフという都市にあり、欧州最大級のソフトウェア会社です。

1972年の創業で、IBMのドイツ法人を退社したエンジニアにより起こされました。この業界では世界第4位の売上高を誇っています。

全世界に34万社以上の顧客企業を抱えている、正にグローバル企業と言っていいでしょう。

企業全体が保有する各機能を、丸ごとすっぽり包み込むイメージの統合型ソフトウェアが主力製品です。

それぞれの製品と機能の関係については順次解説します。


SAPの新規事業分野

SAPに対する理解を深める上で、この会社の事業形態に関しても触れておきましょう。とても興味深い発見があると思います。

この会社の大きな特徴は他社との「業務提携」に於いて極めて積極的である点です。2015年末にはこの事業分野での売上高がなんと6割に達しました。

主な提携先企業と団体を挙げてみます。

  • アップル
  • Google
  • マイクロソフト
  • IBM
  • アディダス
  • アンダーアーマー
  • 中国政府
  • 韓国政府

など世界の有力企業・団体が名を連ねています。例えばアップルとはAIの利用による対話アプリの開発を行っています。

またドイツではシーメンスやボッシュといった企業と共にIoTの世界標準策定という国家プロジェクトに参画したことが有名です。

その他にも医療の分野では米国臨床腫瘍学会が主導するプロジェクトに於いて、治療履歴と治療方法をコントロールするソフトの開発を手掛けました。

日本のプロサッカーチームである横浜F・マリノスとはクラブ運営の効率化やマーケティングでの協働作業に携わっています。


SAPとERPの関係

SAPについての基本的な知識を得るにはまずERPについて知っておく必要があります。SAPとERPの言葉の意味や両者の関係などから説明を始めます。


ERPというパッケージ

ERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、直訳すると「企業資源計画」となります。

「統合基幹業務システム」とか「ERPパッケージ」いう呼び方が一般的でしょう。

経営資源を総合的に管理し、有効活用を図る目的で開発されたものです。

会計・人事・生産・物流・販売といった機能に係る情報の一元管理を進めることを基本的概念としています。

そのERPパッケージの内の一つがSAPです。ERPという概念を具現化したパッケージソフトがSAPであると考えて下さい。

つまり両者は包含関係にあると言っていいでしょう。


ERP登場の背景

1990年以降、市場のグローバル化に対応するための経営資源の適性配置・適性配分が企業にとっての主要命題となりました。

そんな背景を背負って登場したのが統合基幹業務システムとしてのERPです。

従来の業務システムでは「給与システム」「生産管理システム」「会計システム」などの個別の業務システムの範囲内で最適化を図るという概念が主流でした。

そのため生産・物流・人事などの各業務フェーズの情報を会計システムに反映させるために入力し直すという作業が必須でした。

このことが効率の悪化やデータの間違いの元凶となっていたわけです。

ERPでは業務ユニット毎のデータ受け渡しを自動化し、最終的に会計機能に集約させたという点で画期的でした。


ERPが可能にしたこと

統合型の業務システムパッケージを開発する上で壁となっていたのは商習慣の違いでした。

ヨーロッパで生まれたERPという概念は日本の商習慣に馴染みにくかったのだと言われています。

そこで基盤となるシステムの上にアドオンを置いて、様々な業態に対応することが出来るよう工夫されたわけです。


SAP以外のERPパッケージ

日本国内では、SAP以外のERPパッケージも利用されていますので参考までに紹介します。


  • Oracle EBS・People Soft Enterprise(米国オラクル株式会社)
  • COMPANY(株式会社ワークスアプリケーションズ)
  • SMILEシリーズ(株式会社大塚商会)
  • OBIC7(株式会社 オービック) など

COMPANYというパッケージは国内市場では第一位の導入実績を誇っています。人事管理に強みがあります。

SMILEシリーズやOBIC7は中小企業に根強い人気があるようです。

一律に統合型業務システムと括ってみても業務エリア毎に強みが分かれるので、特徴をよく吟味する必要があると言えます。


SAPのプロフィール

SAPを取り巻く環境について説明してきました。ではSAP自体はどんなソフトなのでしょうか。その特徴や目的に迫ってみましょう。


何のために使うものか

SAPは会社の基幹業務システム全体を守備範囲とするパッケージソフトです。

人事、生産、物流、販売などの個別の業務システムをコントロールしながら最終的に会計システムに情報集約し、一元管理します。

一元管理されることでリアルタイムの分析を行うことができます。業務効率の改善に直結したツールと言えるでしょう。


SAPの特徴-強み

典型的な導入メリットがSAPには3つあるとされています。SAPの基本設計の土台は世界の優良企業で遂行されている「ベストプラクティス」です。

これは仕事の進め方の最適パターンをモデル化したものと考えていいでしょう。「優良企業の業務プロセスを踏襲できること」が第一のメリットとなります。

2点目は優れた「履歴管理に基づく透明性の確保」ができることです。ユーザーIDと行為の追跡が的確に行えるので入力データの信憑性が高まります。

それは財務諸表について正当性の確保をもたらすものです。

最後の3点目は「データの連続性」というメリットです。入力されたデータはリアルタイムで会計データに転化されます。

データの重複が無く、データの整合性が確保できることが強みと言えるでしょう。


SAPの特徴-弱み

強みの印象は強烈ですが、SAPには弱みとなる部分もあります。まず一番に考慮しなければならないことはライセンス費用の高さです。

ユーザー数に応じた「従量課金制」を採っているので、規模の大きい会社ほどその費用が膨張します。

業務プロセスの改善効果と導入コストのバランスをどう評価するかは簡単なことではありません。

2点目はエンジニアの数の問題です。SAPの開発言語はABAPという言語ですが業務システムを内製化する場合の開発言語はjavaやC+が多数派です。

SAPの開発者の数が足りない、ということは明らかに弱みとなっています。

優れたクウォリティと高い導入コストのバランスに悩む、それはSAPの抱える宿命でしょうか。


SAPの開発に使用するABAPについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。ABAPに興味のある方は、ぜひ併せてご参照ください。

ABAPの基礎をわかりやすく解説!ABAPの難易度とおすすめの勉強法とは?ABAP言語を習得するメリットも確認しておこう


導入方法

SAPを導入する場合、コンフィグとABAP開発という2つのステップが必要となります。

コンフィグはカスタマイズを意味しています。パラメーターを設定することです。

設定項目を一つずつ入力します。項目は「社名」「所在地」から「消費税」に関するものまで極めて多岐に亘ります。

多くの業態に対応できる所以でもありますが、一方で中小企業などが導入を躊躇する原因ともなっているものです。

ABAP開発は別名アドオン開発と呼ばれています。標準仕様以外の知識が必要とされる作業で特別な費用の発生は避けて通れません。

SAPで発生する不具合の95%はこの作業工程が原因と言われています。


SAPのモジュール

SAPは業務単位に機能分化されたパッケージですが、個々の機能はモジュールと呼ばれています。

SAPではモジュール単位で導入する、しないを判断することができるので主なものを抜き出して一つずつ紹介しましょう。


PP-生産管理

Production Planning and Controlの略です。生産計画と管理を扱うものです。


SD-販売管理

Sales and Distributionは受注から商品出荷までをカバーする販売管理システムです。

請求書の発行まで含んでおり、ここで生じる売上データは財務会計モジュールに送られます。


MM-在庫購買管理

調達と在庫をコントロールするモジュールで、Material Managementの略称です。

発注価額や在庫量などのデータを扱っていてこれらも財務会計モジュールに転送されます。


FI-財務会計

Financial Accountingは会計システムであり、SAPの心臓部と言っていいでしょう。他のモジュールのデータはここに集約される構造です。

財務諸表の作成を担っているのでFIというモジュール抜きではSAPが成立しません。


CO-管理会計

FIの外部報告に対しControllingは内部管理資料を作るためのモジュールです。費用管理、業績管理などに利用されます。


SAP導入コスト

SAPに限らずERPパッケージの導入コストは通常であればライセンス、初期導入、サポートサービスなどの要素で構成されています。

SAPというパッケージの場合、パラメーターの設定の仕方によりあらゆる業種に対応できる柔軟性が特徴です。

そのため導入コストを一律に見積もることができません。企業規模、データ量、モジュールの選択の仕方、カスタマイズ費用などにより大きく変動するからです。

詳しく見積もるには「オンライン・ソリューション・コンフィギュレーター」というツールを使う方法があります。SAPジャパン株式会社が提供するツールです。

使い方は簡単です。

  • 業種の選択
  • 従業員数・ユーザー数の入力
  • 必要な機能の選択

という3つのステップで費用見積もりが簡単に行えます。Webサイト上にあり、誰でも無償で利用可能です。

パラメーターを入れ替えながらケーススタディができること、画面遷移が無いこと、などの特徴があるツールとなっています。


SAPのサポートサービス

SAPには各種のサポートサービスの用意がありますが、代表的なものをピックアップしてみました


導入サービス

ベストプラクティスを活かしたSAPソリューションの実装、導入を支援するものです。特定の業種向けに予めパッケージ化された製品を提供します。


クラウドサービス

クラウドへの接続やセキュリティの確保などについて支援するものです。ネットワークの簡素化も図れます。


イノベーションとアドバイザリー

アドバイザリーサービスを活用したデジタルビジネスモデルの構築をサポートします。会社の変革を支えるものです。


SAPの5大製品

SAPには5大製品と呼ばれて注目を集める製品があります。それぞれの特徴を簡単に紹介しますので選択の参考にして下さい。


SAP ERP

各機能間のデータ連携が、バッチ処理ではなくリアルタイムで可能です。因みにバッチ処理はデータの集計を決められた時間帯でのみ行う方式のことです。

深夜の時間帯に行われるのが一般的です。

多言語、他通貨、多制度に対応できるという特性を持っています。モバイル対応も実現させました。


SAP S/4HANA

このソフトはSAP HANAの機能を更に進化させたものです。

SAP HANAはデータベース管理に於いてインメモリにデータを展開するという特徴を持っています。

インメモリとはソフトの実行に際してメインメモリ上にプログラムやデータを呼び込み、ストレージを使わないことで高速処理を実現するものです。

SAP HANAではこの処理をクラウド、オンプレミス、どちらでも展開できます。

SAP S/4HANAはSAP HANAと較べ、中間テーブルを排除しているので更に処理を高速化させました。


SAP S/4HANA Cloud

SAP S/4HANA Cloudは作り込みを排除し標準化を重視したパッケージです。SaaSの仕組みを取り入れたことで環境変化への対応が簡単になりました。

このSaaSというのはインターネットを介してクラウドサーバーにあるソフトを利用できる仕組みのことです。


SAP Business One

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StartupStockPhotos (CC0), Pixabay

SAP Business Oneは中小企業向けのビジネスマネージメントソフトです。成長に連れて拡張できるソフトですから管理能力強化に貢献します。

オンプレミスでもクラウドでも対応可能です。


SAP Business ByDesign

組織内部の様々な機能をベストプラクティスへと導いてくれるソフトとして評価されています。リアルタイム分析機能により収益性向上に寄与するでしょう。

全ての機能を一つのパッケージで扱うというコンセプトがあり、プロジェクト管理やサプライチェーン管理に力を発揮します。


2025年問題

「SAP ERP」の保守サービスは2025年に終了します。2020年時点で国内に2000社以上のユーザーが存在していますが、どう対応するかは難問です。

SAP ERPは5大製品の一つと紹介しましたがSAP R/3という古いバージョンの後継版として長きに亘って企業の基幹業務を支えてきました。

ユーザー企業は基幹系システムの移行先を考える必要があるわけですが、問題点や実現可能性のある選択肢について検討を加えてみます。


移行に伴う障害

提供元のSAPでは移行先に純正の「SAP S/4HANA」を掲げています。そこで問題になるのはデータベースとの相性です。

SAP ERPはUNIX、Linux、Windowsなどと連携可能なマルチプラットフォームという特徴を持っていました。

片やSAP S/4HANAのデータベースの方はSAP HANAにしか対応していません。

ユーザー企業にとっては大きな負担となることは明らかです。

SAP ERPは基幹業務システムですが機能の網羅性が高く、多様な業態にも対応できるものでした。

そのため、グループ企業全体で導入しているケースも稀ではありません。

その場合の移行による負担は更に膨張することになります。


対応の選択肢

考えられる選択肢として4つの方法を紹介します。


  • 現行のSAP ERPを使い続ける
  • 2025年までにSAP S/4HANAへ移行する
  • 2025年以降にSAP S/4HANAへ移行する
  • 他のERPパッケージへ乗り換える

SAP S/4HANAへの移行はSAPコンサルタントの不足による導入サポートサービスの低下という心配があります。

使用継続は移行先検討の時間を稼ぐことができますが、保守サービスが切れるため新たな委託先を探さなければなりません。

乗り換えは最新のパッケージを導入できる反面、データ移行、保守契約の再締結、エンドユーザーの習熟度と再教育などの課題に直面します。

いずれにせよ看過できない深刻な問題であることだけはしっかりと認識しておく必要があるでしょう。


SAPロードマップ

SAPには「ロードマップ」というサービスがあります。SAPが提供するMarketplace IDを取得してService Marketplace上で見ることができるものです。

業種別のビジネスソリューションやSAP製品の機能紹介、将来を見越した製品ラインアップなどの情報が集約されているマップです。

業務プロセスの改善について検討する時は役立てたいサービスだと思います。


SAPとの付き合い方

SAPはパッケージとは言いながら柔軟性・多様性の高いソフトです。それを可能にしているのはアドオン機能の存在です。

一方で、「バグの温床となるアドオン機能はなるべく削減すべき」という意見もあります。

「逆にSAPが志向するコンセプトを活かし、業務プロセスの方を改善することが大切」という考え方にも説得力があります。

SAPが持つ強み、弱みを充分理解した上で上手に付き合いたいですね。


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