量子コンピューターとは?原理や仕組みをわかりやすく解説!実用化されるとエンジニアの未来像はどう変わる?日本の現状も紹介
未来へ繋がる新世代のコンピュータ
昨今、一般のニュースなどでも聞かれる「量子コンピュータ」という単語。
エンジニアにとっても身近なものではないものの、ある程度は知っていて当たり前の存在です。
しかし、ニュースなどで取り上げられる機会が増えてきたため、エンジニアでなくとも量子コンピュータという単語だけは聞いたことがあるという方が増加していると考えられます。
今回の記事では、最近一般層にも注目され始めている「量子コンピュータ」に注目していきます。
そもそも量子コンピュータって何なのか?というポイントはもちろんのこと、実用化されるとエンジニアにどんな影響を及ぼすのかという点についても注目。
原理や仕組みまで、分かりやすく解説していきます。
量子コンピュータに興味のある方はぜひご覧になってみてください。
量子コンピュータとは
では早速、量子コンピュータとは一体どういうものなのかというポイントを解説いたします。
量子コンピュータについて簡単に言い表せば、その名の通り量子力学的原理を用いて計算を行うコンピュータです。
古典コンピュータとの違い
量子コンピュータとこれまでのいわゆる「コンピュータ」とは何が違うのでしょうか。
元来のコンピュータは古典物理学を基にした計算を行っています。
この計算における方法の違いが、古典コンピュータと量子コンピュータの違いです。
そのため、量子コンピュータと比較して語られる際にはしばしば「古典コンピュータ」と表記されることが多いです。
今回の記事でもそれに倣い「古典コンピュータ」と表記していきます。
量子コンピュータは上位互換である
結論からいえば、量子コンピュータは古典コンピュータの上位互換といえる代物です。
古典コンピュータでできることは、量子コンピュータでも実現できます。
逆に、古典コンピュータでできないこと(複雑な計算など)や途方もない時間を要するものが量子コンピュータでは短時間で実現可能です。
計算能力は1億倍ともいわれているデータまで存在。
まさに量子コンピュータは人類の未来を担う存在とまでいえる、可能性に満ちている新世代のコンピュータといえることが分かります。
量子コンピュータの原理・仕組み
それでは、これからは量子コンピュータの原理や仕組みを解説していきます。
少し専門的かつマニアックな技術分野に関する内容となりますので、じっくりとお読みください。
原理について完璧に理解しようとするととてつもなく時間を要しますので、ざっくりと簡単に解説いたします。
量子ビットは「0」と「1」両方になる
まず原理として知っておきたいのが「ビット」についてです。
本来1ビットは「0」か「1」のどちらか一方にしかなりません。
しかし、1量子ビットは「0と1」両方になれます。
つまり、従来とはそもそもビットが全く別物になってくるということです。
重ね合わせ
量子コンピュータでよく見られる「重ね合わせ」という言葉はこのこと。
これにより、2つまたはそれ以上の状態を「同時に」表すということを実現できるということになります。
この量子ビットは実際に観測するまで0なのか、1なのかということが分かりません。
これも1つの特徴であり、必ずどれかが「観測」されることになります。
確率的であり、観測するごとにこの結果が異なってくるという特徴があるということです。
同時に複数の結果を表せる
本来4ビットで情報を表そうとすると、16通りある結果のうち1つの結果しか出力できません。
しかし、量子ビットであれば16通り全てを一度に表すことができてしまいます。
少ないビット数で膨大な情報量を扱えるという認識でもいいかもしれません。
仮に20量子ビットあれば、100万通りを並列できます。
数字を見ただけでも量子コンピュータがとてつもない可能性を秘めていることが、少しでも分かるのではないでしょうか。
量子ゲート方式と量子アニーリング方式
量子コンピュータには2つの方式が存在しています。
それが「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」です。
文字だけ見ても意味が分かりませんから、こちらも1つずつ簡単に解説します。
量子ビットや重ね合わせを使用する量子ゲート方式
先ほどまで解説していた「量子ビット」や「重ね合わせ」を使用するのが「量子ゲート方式」による量子コンピュータです。
古典コンピュータの論理回路に量子力学の性質を取り込んだものだと表現できるでしょう。
IBMやGoogleが実用化へ向けて研究・開発を進めているのがこちらの量子ゲート方式。
実用化はまだまだ実現しそうにないという現状にあります。
ちなみに量子ゲート方式は「量子回路方式」と表現されることも。
この点もしっかり押さえておきましょう。
組み合わせ最適化問題に特化している量子アニーリング方式
では、もう一方の方式である「量子アニーリング方式」とは何なのでしょうか。
こちらは1998年に東京工業大学の西森秀稔教授らが提唱した理論がベースになっている、日本発のものともいえる考え方です。
扱える変数は古典コンピュータ以下の2,000個程度でできることが限られます。
また、超低温状態を維持しなければならなかったりとデメリットに感じられる要素の多い方式ですが、こちらは既に実用化が実現しています。
量子アニーリング方式を用いた量子コンピュータの開発に成功したのは2011年にカナダのベンチャー企業であるD-Waveシステムズ。
D-Waveという量子コンピュータを作り、NASA、USRA、Googleによる検証の結果、古典コンピュータよりも1億倍高速であると発表されました。
できることが限られている分、古典コンピュータが苦手としていた「組み合わせ最適化問題」に特化しているといわれており、実用化においても様々な活用方法が想定できます。
確かにできることは少ないかもしれませんが、可能性に満ちた量子コンピュータであるといえるでしょう。
量子コンピュータのメリット
では、量子コンピュータを実用化することによって生じるメリットは一体どういうものがあるのでしょうか。
従来の古典コンピュータの計算・処理能力の向上は、やがて限界が来るといわれています。
しかし、量子コンピュータであればその限界を遥かに超越した計算・処理能力を実現可能です。
古典コンピュータでは計算できなかったようなものや、膨大なパターンの組み合わせなどから最適なものを導き出すなどといった計算を瞬時に行えるようになるでしょう。
また電力消費が少ないという特徴もあり、こちらもメリットだといえるでしょう。
量子コンピュータの実績
可能性に満ちている量子コンピュータですが、既にスーパーコンピュータ(スパコン)の計算速度を上回る実績を持っています。
Googleは以前「スパコンでは1万年かかる特殊な計算を量子コンピュータが3分20秒で計算した」と発表。
比較対象とされているスパコンは世界最高といわれているスパコンであるため、とてつもなく高速な計算を実現したと話題になりました。
対して、その計算は従来のスパコンでも2日半で計算できるのでは?とIBMが批判したことも同時に話題にあがり、熾烈な競争をしている2社のライバル関係が垣間見えます。
IBMによる量子コンピュータ
量子コンピュータの開発・研究を積極的に行っているIBMが、53量子ビットを実装している量子コンピュータを発表しています。
こちらは顧客向けに提供すると発表しており、一般利用向けの量子コンピュータとしては最大規模のものです。
IBMの持つデータセンター「Quantum Computation Center」内に設置されており、他にも20量子ビットのマシンを14台設置。
本気で量子コンピュータ開発に取り組んでいることがうかがえますね。
このように、IBMはクラウド向け量子コンピュータとして一般の顧客に対して提供をスタートさせており、開発を着々と進めています。
少しずつ一般層にも広まっていくことが予想できるでしょう。
日本における量子コンピュータの現状
IBMやGoogle、そしてカナダのD-Waveシステムズが量子コンピュータを研究していることは既にお伝えしました。
それでは、日本における量子コンピュータの現状はどうなっているのでしょうか。
量子アニーリング方式のベースとなっているのは日本の東京工業大学の教授らの提唱したもの。
このように、日本は研究段階が進んでいたとしても商用化において先ほどあげた海外企業らにリードを許しています。
とはいえ、日本企業は開発をしていないわけではありません。
NTTは「量子ニューラルネットワーク(QNN)」の開発に成功。
これは室温でも長時間運用が可能とされており、こちらも可能性を感じる新たな技術となっています。
理化学研究所のスパコン「Shoubu」より100倍高速とのこと。
これは無償公開されており、以下のリンクからチェックできます。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
量子コンピュータによって起こり得るリスク
未来が楽しみな量子コンピュータですが、実は大きなリスクも眠っています。
それは「セキュリティにおける問題」です。
暗号が計算できてしまう
特に量子ゲート方式による量子コンピュータにいえることですが、量子コンピュータは膨大な計算を高速で行うことが可能です。
その分パスワードなどの解析も高速で行えてしまうということになります。
現在セキュリティでは特に公開鍵暗号方式が広まっており、セキュアなシステムおよびその運用を実現していますが、それが脅かされることになるということです。
というのも、セキュリティにおいて利用されている暗号は、暗号鍵そのものは分からなくても計算すること自体は可能だからです。
公開鍵暗号方式は実は完全な秘密通信ではない
そもそも世で広く親しまれている公開鍵暗号方式は、実は計算ができてしまいます。
しかし、現在流通しているような古典コンピュータではその計算に膨大な時間がかかるから現実的ではありませんでした。
そのため公開鍵暗号方式は計算量的安全性とされ、完全な秘密通信とはいえない現状にあるということです。
量子コンピュータが世に浸透したらリスキーな世の中になる
しかし、もしも量子コンピュータが実用化され一般層も気軽に扱えるようになったら、簡単に計算できるようになってしまいます。
セキュリティを取り巻く状況が一変するともいえるでしょう。
常にリスクが付き纏った危険な状態にさらされることになります。
そのため、量子コンピュータの発展と同時にセキュリティ面も同時に発展していかなければなりません。
量子暗号(量子鍵配送)への期待
セキュリティ面の脅威にさらされる可能性があると紹介しましたが、当然新たな暗号方式も研究・開発が進められています。
それが「量子暗号(量子鍵配送)」というもの。
これは量子コンピュータに「解読されない」暗号とされており、非常にセキュアな通信だといわれている暗号通信です。
量子力学的な性質を利用することで第三者による鍵の盗聴を検知したり、盗聴量を計測することが可能とされています。
量子暗号通信が実用化される?
そんな中、東芝が2020年度の実用化方針を掲げています。
量子暗号通信が世の中に広まっていく未来も、そう遠くないのかもしれません。
仮に量子コンピュータが一般普及まで行かずとも、量子暗号通信が世の中へ広まっていけばより安心したITライフを送ることに繋がります。
これからの技術の発展に期待して待ちましょう。
量子コンピュータの未来
今後も量子コンピュータに関しては様々な方式などで企業および国家間で激しい競争が繰り広げられることが予想されます。
とはいえ、未来が非常に楽しみな分野といえるでしょう。
量子コンピュータが仮に「完成」し、商用化などが実現すれば、生活や企業の商業活動が一変する可能性すら眠っています。
それほどまでに可能性に満ちているのが「量子コンピュータ」だということです。
これからの量子コンピュータの研究・開発の進展は、発表がある度にITメディアや業界では大きなニュースになっていくことでしょう。
量子コンピュータの動向から目を離さず、技術者として常に最新情報を仕入れられるようアンテナを張っておきましょう。
未来を創り出す量子コンピュータ
今回の記事で解説・紹介をした「量子コンピュータ」は、未来を創り出すことのできる新世代のコンピュータです。
量子ゲート方式が実用化されるのがいつになるのかは分かりませんが、量子アニーリング方式の量子コンピュータは既に実用化が実現しています。
導入事例もあり、既に世の中で活用されているということです。
「量子コンピュータの時代なんてまだまだ先の話」などとはもう言っていられない状況にあるといえるでしょう。
エンジニアとして、IT業界携わっている人材として、今後の量子コンピュータの発展や動向から目を離さずチェックしておくことは非常に重要です。
未来に繋がる量子コンピュータの進化をこれからも楽しみつつ見守っていきましょう。
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