はじめに

「正社員のSierエンジニアを長年してきたが、フリーランスとして活動していきたい」

そのように検討中の方は必見です。

正社員であれば社会保険に関して手厚い保障が受けられます。

しかし、下記のような欲求は満たせません。

・好きな仕事・やりたい仕事が把握できていて自由に案件を選択したい


・自分の好きなポジションで働きたい 等

長年の経験があると身に付けた自己のスキルを好きな場所で発揮したいものです。

そこで今回、個人事業主の社会保険を徹底解説します。

これを読めばフリーランスになった後も社会保険について悩むことはなくなります。

独立後も安心して活動できるよう、手続きや負担額・扶養の条件は勿論、加入義務や強制・任意加入の保険まで詳しく解説します。


個人事業主の加入に関係する社会保険

社会保険とは

社会保険とは、以下の5つの保険制度の総称です。

  1. 健康保険
  2. 介護保険
  3. 厚生年金保険
  4. 労災保険
  5. 雇用保険

まずは、個人事業主にとってこの5つの社会保険制度がどのように関係するのか解説します。

健康保険・介護保険

個人事業主が加入できる健康保険のうち、良く耳にするのは「国民健康保険」です。

国民健康保険の場合、前年の所得によって保険料が変わります。

特徴は、収入が高ければその分保険料と負担も大きくなるという点です。

加えて、40歳以上であれば介護保険料も支払う必要があります。


なお、フリーランスや個人事業主が加入できる健康保険については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
ぜひ、併せてご参照ください。

フリーランスが加入できる健康保険とは?健康保険の種類と保険料の節約方法について詳しく紹介


厚生年金保険

個人事業主は国民年金に加入します。

国民年金の特徴は、全額自己負担という点です。

会社員が加入する厚生年金は、毎月の保険料を会社と折半しますが、個人事業主は全額自己負担となります。

また、毎月支払う保険料は一定です。収入により変動することはありません。

ただ、年を重ねるごとに徐々に高くなっていきます。


労災保険・雇用保険

個人事業主は会社員と違い、原則として労災保険と雇用保険に加入できません。

よって、業務中のケガに対する補償金、再就職期間の給付金も受けられません。

しかし、例外として土木・建築、運送事業、林業等の業種は特別加入制度が適用されます。


国民健康保険・国民年金への加入に必要な手続き

次に個人事業主にとって重要な国民健康保険・国民年金の加入手続きに関して解説します。


国民健康保険加入の手続き

国民健康保険に加入する際は、原則14日以内に手続きする必要があります。

・手続き先:市役所の国保年金課窓口

・必要なもの:加入する方のマイナンバーがわかるもの、印鑑、代理人が届け出をする場合、委任状(同一世帯に居住の方の場合は委任状不要です。代理人の本人確認を免許証等で行います)

また、正社員からフリーランスへと転身する場合は、社会保険資格喪失証明書または退職証明書が必要です。


国民年金加入の手続き

国民年金に加入する際は、退職日の翌日から14日以内に手続きする必要があります。

・手続き先:市役所または町村役場

・必要なもの:年金手帳または基礎年金番号通知書


国民健康保険・国民年金の負担額

個人事業主が加入する国民健康保険・国民年金の保険料はどのようになっているか解説します。


国民健康保険の負担額

国民健康保険料に関しては計算方法があります。

所得割額→所得割料率×賦課標準額

均等割:一人当たりの均等割×加入者数

平等割:一世帯ごとにかかる額

賦課限度額:一世帯ごとの限度額合計=1世帯あたりの年間保険料

出典元:http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kurashi/nenkin/kokuho/hokenryo/ryoukin.html

国民健康保険の負担額は一定ではなく、個人の状況に変動します。

生活状況により軽減や減免対策をしたい場合、各市町村の窓口に相談すれば可能です。


国民年金の負担額

国民年金の保険料は毎年見直されます。

物価や賃金の変動によって保険料も変わります。

国民年金第1号被保険者及び任意加入被保険者の1カ月当たりの保険料は16,410円です(令和元年度)

配偶者がいるならば、夫婦2人分の保険料を支払う義務があります。


個人事業主が扶養に入る条件

さて、これまで個人事業主として自ら社会保険も支払うというイメージで解説しましたが、扶養に入ることに関しても触れておきます。

配偶者か親族に一定条件を満たす配偶者または扶養親族がいる場合は、配偶者控除または扶養親族控除という税制優遇を受けることが可能です。

そうすることで自分の収入から所得税・税や社会保険料を支払う必要がなくなるというメリットがあります。


社会保険の条件

収入面の条件としては、年間収入130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は、年間収入180万円未満)であることが必要です。

また、同居の場合は扶養者の収入の半分未満、別居の場合は扶養者からの仕送り額未満でなければいけません。


年金の条件

会社員、公務員の配偶者、扶養親族に該当していれば、第3号被保険者となるため国民年金を支払う必要はありません。

国民年金保険料は国民健康保険とは違い、収入により保険料は変動せず、一定の金額です。

その代り、フリーランスとして駆け出しの時に所得が少ない場合、負担が大きく感じます。

扶養に入ることも視野に入れておくのも1つの手段です。

そうすることで国民年金を負担せずに済みます。


従業員を雇用する個人事業主の社会保険加入義務

売上が伸びて案件も増えてくると従業員を雇う可能性が出てきます。

従業員を雇用する場合としない場合での各種保険の違いも解説します。


年金保険

家族を含まない正社員が5人未満の個人事業所は厚生年金保険が適用されません。

そのため、個人で国民年金に加入します。

しかし、労働者の2分の1以上に加入の同意があれば、厚生年金保険に任意加入することができます。

その他適用に必要な条件は、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の従業員であることです。


雇用保険

事業主・代表者・役員には雇用保険は適用されません。

従業員は所定労働時間が1週間に20時間以上、雇用期間が31日以上であれば加入が必要です。


労災保険

従業員を1人以上抱えていれば労災保険は適用可能です。

個人事業主・自営業者・家族従事者は労災保険が適用されません。

しかし、一部事業内容(特定作業従事者・中小事業主・一人親方・海外派遣者)によっては特別加入制度が適用可能です。


従業員を雇用しない個人事業主の社会保険加入義務

反対に従業員を雇用しない場合はどうなるでしょうか。


健康保険

個人事業主は国民健康保険か業種ごとの健康保険組合に加入する必要があります。

配偶者や両親の扶養家族に入った場合は保険料の負担はなくなるものの、条件として年収が130万円以下でなければいけません。

業種ごとの健康保険組合があれば、そちらに加入することも可能です。

例えば、Web系のイラストレーター等の業種であれば、文芸美術国民健康保険組合が行う医療保険に加入できます。

組合ごとに保険料の違いはありますが、毎月の支払いが一定額であることが多いです。

そのため、仕事が波に乗って収入が多くなった場合は、国民健康保険より金額面でお得になるというメリットがあります。

健康保険組合がある業種は、土木・建築、医師、税理士、文芸・美術関連職などです。

同業種の方に相談してみるのもいいでしょう。

このように自分の状況に合った保険に加入すると負担も減るだけでなく、メリットも生まれます。


年金保険

個人事業主は国民年金に加入します。

会社員が加入している厚生年金に比べると、国民年金だけでは将来受給できる年金額が少なくなってしまいます。

対処法としては、任意で付加できる年金の保険料を別途支払うか、国民年金基金に加入するかという選択肢があります。


雇用保険と労災保険

個人事業主は、原則として雇用保険と労災保険に加入できません。

例外として労災保険に加入できるのは、特別加入制度が適用可能な場合です。

それは、事業内容によります。

下記に特別加入制度が適用される事業をまとめます。

・土木、建築、工作物の建設、改造、保存、破壊、解体などの事業


・医薬品配置販売業


・再生利用を目的とする廃棄物の収集、運搬、選別、解体などの事業


・自動車を使用する旅客、貨物の運送の事業


・林業事業


・漁船による水産動植物の採捕の事業


・船員法第1条に規定する船員が行う事業


個人事業主の強制加入の保険

個人事業主が必ず加入する保険は下記2つです。

・健康保険

・年金保険

健康保険では基本的に国民健康保険か国民健康保険組合に加入、年金保険では国民年金に加入する形となります。

個人事業主になると、会社員時代とは違い厚生年金には加入できません。

もしも、強制加入の2つだけでなく、厚生年金にも加入したい場合の選択肢はあります。

それは、法人化です。

フリーランスとなって自分が行っている事業を法人化します。

会社を設立すれば、会社員時代と同様の社会保険に加入することが可能です。

会社の社長でも会社に使用されているということになります。

そのため、健康保険・厚生年金に加入することが可能です。

しかし、法人化をしてその会社の社長となっても、労働基準法の労働者には該当しないため、雇用保険・労災保険には加入できません。

法人化は節税対策にも効果的ですが、フリーランスとなって売上が軌道に乗った段階から検討しても遅くはないです。


個人事業主の任意加入の保険

個人事業主が任意加入できる保険をまとめます。

・健康保険


・前の会社の健康保険


・付加年金


・国民年金基金


・小規模企業共済

フリーランスを検討中でも、会社人に比べると手厚い保障というものはなく、どうしてもリスクを感じてしまいます。

しかし、強制加入だけでなく任意加入の保険に関しても知識を学び、自分の状況に合わせたプランを考えることができればリスク回避にもなります。

そのため、個人事業主にとって任意加入の保険は重要です。

一度、自分に合ったものはないか確かめておきましょう。


健康保険

健康保険に関して、労働者の2分の1以上が加入の同意をした場合、健康保険に任意加入することが可能です。


退職する前の健康保険

退職する前の会社の健康保険を継続することもできます。

在職中とは違い、保険料は全額自己負担です。

継続できる期間は退職してから2年となります。

この任意継続を選択すると、途中で脱退できないため注意が必要です。


付加年金

国民年金に関して、付加できる年金2種類を解説します。

1つ目は付加年金です。

国の運用する年金で国民年金に上乗せとして付加します。

保険料は一律月額400円です。

条件としては、自営業者(第1号被保険者)のみ加入できます。

注意点としては、国民年金基金との併用は不可能な点です。

加入するには各市町村から手続き可能です。


国民年金基金

2つ目は国民年金基金です。

こちらも国の運用する年金で国民年金に上乗として付加します。

毎月の掛金が一定額であり、掛けた口数により受給できる年金額は変動します。

掛金の月額上限は68,000円です。

他にも加入時の年齢、性別等、選択内容によっても変動します。

加入方法は、公式サイトから資料請求を行い、その後申込書の提出を行うという流れになります。


小規模企業共済

次に小規模企業共済に関して解説します。

小規模企業共済とは、個人事業主でも退職金(共済金)を受け取れることのできる制度です。

加入条件としては、常時使用とする従業員がの人数が20人(一部業種では5名)以下であることです。

毎月の掛金は1,000円~70,000円まで自由に選択できます。

掛金を増減する際は500円単位となります。

例えば、フリーランスで活動していても事業が上手くいかなかった場合、事業を廃止しなければいけません。

小規模企業共済に加入してしっかりと積み立てをしていれば、掛金に応じた退職金を受け取ることが可能です。

フリーランスへと独立した場合に不安になることがありますが、この小規模企業共済は独立初期に適しています。

個人事業主になった時に会社員時代と比べてしまう保障の1つに退職金があります。

退職金をもらえないと嘆く人もいますが、しっかりと社会保険の知識を身に付け、小規模企業共済に加入すればそのリスクもカバーすることは可能です。

このように任意加入の保険の種類は多いです。

任意のためそこまで重要視せずに加入しないでおくと、未来の自分が苦しむことになります。

また、個人事業主となってその先の老後のことも考えるのであれば、リスク回避は必須です。

しっかりと内容を知った上で、それでも必要性がなければ加入しないでおきましょう。


フリーランスになる前の注意点

自分の状況に合った社会保険を選択すると、フリーランスとして活躍してからも保険に悩むことはありません。

解説してきたように個人事業主に関係する社会保険、選択肢は多岐にわたります。

独立する前にきちんと学ぶことを意識し、必ず自分の状況に合ったプランを選択するよう心掛けましょう。

また、売上が波に乗った場合や、初期から長期的な大きな案件が決まっている場合には、法人化するという手段もあります。

法人化すれば、個人事業主に比べて社会的信用も高く、次のステップへと進みやすいです。

資金面でも節税対策もしやすくなるというメリットもあります。

せっかくフリーランスで活躍するのであれば、長期的な計画を立てつつ社会保険を活用するとより一層自分の求めるメリットが生まれます。

老後のことまで考えるのであれば、付加年金や国民年金基金等の任意で加入できる保険も今の内から検討しましょう。


まとめ

近年、フリーランスとして活躍する方や、在宅ワークに専念する方等、個人事業主として仕事をする人数は増加傾向です。

社会保険の知識がなければ、保険面でも会社に依存してしまい、スキルがあっても不安が払拭されません。

そのようなことでなかなか1歩踏み出せない方もいます。

今回の記事を是非参考にして頂き、自分の状況をしっかりと把握した上で社会保険と向き合えば不安になることは何もありません。

社会保険が不安でも独立した時のメリットがあります。

・好きな仕事・やりたい仕事を自由に選択できる

・自分の好きなポジションで働くことが可能になる

あなたの長年の磨いてきたそのスキルに自信を持って頂き、自分自身に最適な社会保険プランを選択して下さい。

それができれば、何も知らない個人事業主と比べ物にならない程リードした状況でのスタートとなります。

今回の記事により、1人でも多くのフリーランス検討中の方が独立に踏み出して、活躍されれば幸いです。