IT業界では珍しくない「客先常駐」というスタイル

IT業界では頻繁に「客先常駐」という働き方を耳にします。

単純にいうと言葉の通り「客先」に「常駐して働く」という働き方ですが、実際にはどういうものなのかまではご存じない方が多いというのが現状です。

今回こちらの記事ではIT業界では珍しくない「客先常駐」という働き方に注目いたします。

一体どういう働き方で、どんなメリット・デメリットがあるのかという点を解説しつつ、案件の見分け方についてもチェックしていきましょう。


フリーランスでも考え得る働き方

「フリーランス」の働き方は、在宅や場所を問わずどこでも働けるというイメージが強いかもしれません。

実際自由な場所で、自由な時間に働いているフリーランスは多く、その認識は間違いではないといえます。

しかし、IT業界、フリーランスエンジニアにおいては「客先常駐」という形式の案件も多く募集されており、一概に「在宅勤務OK」と判断はできません。

仮にフリーランスであったとしても、客先常駐という働き方への最低限の知識は持っておくべきなのです。


客先常駐とはどんな働き方なのか

まずは「客先常駐」がどんな働き方なのかという点を解説していきます。

IT業界独特とすらいわれているスタイルですが、一体どのような働き方なのでしょうか。


働き方は派遣とほぼ同じ

シンプルにいえば、別の企業に派遣されて働くと言い表せます。

自分が就職した企業がA社、派遣先をB社としましょう。

あくまで自分の所属はA社ですが、通勤して実際に業務を行うのはB社、つまり「客先に常駐して働く」ということになります。

契約などにおいてはいわゆる派遣とは異なりますが、働き方のスタイルという観点でいえば派遣とほぼ同様であるといえるでしょう。


SESと呼ばれることも

客先常駐はIT業界において「SES(System Engineering Service)」と呼ばれることも。

働き方が似ているため派遣と混同されがちですが、SESでは「指揮命令権」は「雇用者」にあります。

つまり「派遣先(常駐先)」にはありません

この点は非常に重要なので、必ず頭に入れておきましょう。


偽装請負に繋がる

もし仮に実質的な指揮命令権を派遣先が持っていたとすれば、それは「偽装請負」と見なされます。

偽装請負は明確な違法行為。

余計なトラブルに巻き込まれ、面倒なことにならないためにも、「客先常駐」の案件を受注する際には常駐先が信頼できるかどうかまで確認しなければなりません。


客先常駐のメリット・デメリットに注目

客先常駐は何かと避けられがちなスタイルです。

出世から遠のくといわれたり、人によっては「しんどくて仕方がない」とまで感じる人もいます。

デメリットやネガティヴな面ばかりに目が行きがちですが、実際はメリットも存在しているのが事実。

では、メリットとデメリットの両面に注目してみましょう。


メリットは5つ

まずはポジティブな方向から客先常駐を掘り下げていきます。

客先常駐におけるメリットは以下の5つです。

  • 人間関係に悩まされにくい
  • 正社員より自由
  • 人脈が広がる
  • 極端な残業になりにくい
  • 経験値を稼げる

1点ずつチェックしていきましょう。


メリット1:人間関係に悩まされにくい

客先に常駐して働く場合、大抵は「個人で」仕事をすることになります。

そのため、必然的に職場の人間関係に悩まされる可能性が低くなるでしょう。

余計な人間関係に頭を悩ませる必要がないため、業務にも集中しやすい環境に身を置けるかもしれません。

ストレスも減り、仕事へのモチベーションが高まる可能性も考えられます。

「仕事は好きでも人間関係が苦手で辛い」という方も多い世の中で、これは1つの大きなメリットといえます。


メリット2:正社員より自由

このメリットは特にフリーランスの場合にいえる点ですが、客先常駐は常駐先の正社員よりも自由に働けます。

派遣契約であれば客先の要求する服装や出退勤管理などに従わなければなりませんが、先ほど触れた通り客先常駐において派遣先に「指揮命令件」はありません。

偽装請負となります。

そのため、出退勤や勤務時間の管理、服装などにおいても指揮命令する権利がなく自由に働くことができるのです。


メリット3:人脈が広がる

ある意味必然的ですが、自社以外のオフィスや現場で働くことで人脈を広げることができます。

自社で働くだけではまず会わない人や、エンジニアと出会い、見識を広げることができるでしょう。

もしかしたら自分の将来のキャリアに繋がる人脈が形成できるかもしれません

新たな出会いを通じ、技術を学んだり、転職や独立の助けとなってくれる可能性と繋がる1つのメリットといえます。


メリット4:極端な残業になりにくい

必ずしもそうとは言い切れませんが、客先常駐は時間計算になっている場合が多いです。

定められている労働時間を超えたら残業代を上乗せできるような契約であるため、極力残業を発生させないよう工夫されます。

正社員だけ残され、常駐している外部のエンジニアが1人だけ早く返されるというケースも生じます。


メリット5:様々な技術に触れられる

客先常駐はその性質上、数ヶ月から数年という比較的短いスパンで職場を転々とする場合があります。

となると、普通に自社で勤務、在宅で延々と仕事をしている状態ではまず経験できない環境に身を置くことができます。

様々なプロジェクトやフレームワーク、言語などに携わり、色々な人と接することでエンジニアとして大きく成長できることでしょう。


デメリットとメリットは表裏一体

続いてはネガティヴな面、客先常駐のデメリットに注目します。

メリットとデメリットは表裏一体という部分もあるため、捉え方によってはメリットに感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、以下の5つが挙げられます。

  • 就業場所が決まっていること
  • 自社への帰属意識・愛着が薄い
  • スキルアップしにくい
  • 現場ごとに求められるものが違う
  • 人間関係が毎回リセットされる

とはいえ、どれもメリットと表裏一体な面が多いといえます。

こちらも1点ずつチェックしつつ、ポジティブな捉え方も注目していきます。


デメリット1:就業場所が決まっていること

特にフリーランスのエンジニアとして働いている方の場合にいえる大きなデメリットが「就業場所が決まっている」というポイントです。

本来は在宅や好きな場所で、いつでもどこでも働くことができるという面が大きな魅力であるフリーランス。

しかし、客先常駐の案件・契約の場合はそうはいきません。

基本的に出退勤の管理はされないとはいえ、通勤時間や手段など、様々な点で「拘束」される面が出てきます。

大きなデメリットだといえますが、在宅・リモートワークだとしっかりとした「自己管理」が必要です。

職場と自宅の境界線が曖昧になるため、仕事へ割く時間が少なくなりがちという方もいらっしゃるでしょう。

そういった意味では、就業場所が決まっていれば「職場」へ行き仕事モードにスイッチを切り替えられるので、集中して業務に取り組めるというメリットにもなり得ます。


デメリット2:自社への帰属意識・愛着が薄い

会社勤めの方の場合、客先常駐であれば当然自社ではなく客先で勤務することになります。

自分が「どの会社に所属しているのか」という認識が曖昧になり、自社への帰属意識や愛着が定着しにくいといえるでしょう。

「会社のために頑張る」というモチベーションが生まれず、仕事への取り組み方・やる気が生まれにくくなってしまいます。

そうなると仕事の質も低下してくるかもしれません。

会社への帰属意識や愛着というのは、社会で生きていく上で必要なものなのです。

しかし、こちらは「転職しやすい」ともいえます。

「転職したいけど、自社に恩があるから出にくい」という気持ちにならず、自分のやりたいこと、進みたい方面へステップを歩むものを邪魔する要因が減ることになります。

こちらも考え方によってはメリットとなり得るといえるでしょう。


デメリット3:スキルアップしにくい

客先常駐という働き方は、メリットで触れた通り様々な技術に触れられます。

反面、難しい仕事を任されるケースは少なく、エンジニアであれば誰にでもできるような仕事を任されることが多いという実態があります。

様々な技術に触れこそすれど、それは広く浅く触れているだけで、技術の定着までは持っていくことができないという可能性も大いに考えられるのです。

少し考えてみれば、相手先企業からすれば自分たちの会社の社員ではない人材のスキルを上げる必要はありません。

ある意味仕方のないことともいえます。

とはいえ、様々な技術に触れる機会を得られるというのは貴重です。

業務では浅い部分までしか扱わないかもしれませんが、それをきっかけにより深くまで学び、自分の技術やスキルとして定着させられるかもしれません。


デメリット4:現場ごとに求められるものが違う

現場ごとに様々な技術に触れるというのはメリットであると同時に「求められるものが違う」というデメリットでもあります。

自分が培ってきた技術が役に立たず、学び直したり自主的に勉強をしなければならない事態になるかもしれません。

業務以外で余計なストレスを感じることにもなり、メリットでもありデメリットでもある点だと捉えられるでしょう。


デメリット5:人間関係が毎回リセットされる

客先常駐は新たな契約がスタートすれば、当然常駐先も変わります。

すると、築き上げてきた人間関係がリセットされることになります。

また1から人間関係を築いていく必要が生じ、自分に「合わない」人たちと仕事をせざるを得ない状況も生じ得ます。

とはいえ、メリットでも触れた通り客先常駐において人間関係をそこまで気にする必要はありません

ある意味「リセットされるから」と捉えておけば、多少苦手は人がいても我慢しやすい環境ともいえます。


客先常駐の案件

フリーランスの方を対象とした客先常駐の案件は、案外数多く募集がかけられています。

しかし、客先常駐は偽装請負などが蔓延っているともいわれており、受注をするには不安も付き纏います。

安心して受注するためには、案件やエージェントの見分け方の注意点を頭に入れておく必要があります。


安心して働ける案件の見分け方

では、安心して働ける案件はどう見分ければいいのでしょうか。

偽装請負の見分け方とも繋がる点になりますが、特に勤務時間と指揮命令権に注意しましょう。


勤務時間の管理

記事の冒頭でも触れましたが、客先常駐という働き方は派遣契約ではありません。

そのため、出退勤や勤務時間を管理することは基本的にできません

この後解説する「指揮命令権」がないため、業務に関する指示をすることはできないのです。

客先常駐の案件であるにも関わらず勤務時間などが記載されていたら注意した方がいいでしょう。


指揮命令権の確認

何よりも重要なのが現場における「指揮命令権」です。

指揮命令権がないのにも関わらず、業務上で何かを要求されるという実態があれば、それは「偽装請負」です。

クライアントとコンタクトを取った際などに明らかにしておくことで、面倒に巻き込まれそうな案件を避けることができます。


人売りIT業界

客先常駐が全くもって珍しくないIT業界を、ネット上では「人売りIT派遣」や「IT人売り」などというフレーズで言い表されていることも。

当然メリットも多くありますが、常駐先の扱い方や偽装請負などに出くわしてしまうと悪い点しか目に入らなくなってしまいます。

「奴隷」とまで表現する人もいるほど、注意して選ばなければいけない働き方が「客先常駐」というスタイルなのです。


キャリアアップのチャンスは少ない

客先常駐という働き方は、キャリアアップのチャンスが多いとはいえません。

自社では勤務せず、客先で働くということは「どんな働きをしているのかが直接見えない」ということになります。

また、上司や営業は実際に派遣される社員のキャリアのことは考えていないケースが多いということもあり、どうしても昇進やキャリアアップには繋がりにくいのです。

しかし、目覚ましい活躍などをしたことで客先からスカウト(引き抜き)される可能性もゼロではありません。

一概に「キャリアアップは無理!」とすることはできないでしょう。


客先常駐を頭ごなしに否定はできない

ネット上などでは否定されがちな「客先常駐」という働き方。

確かに、今回の記事で解説した通りデメリットも多くあります。

しかし、同時にメリットも存在しており「客先常駐は絶対に悪だ」とは言い切れないのが事実です。

フリーランスの方にとって客先常駐は受注のハードルの低い案件でもありますし、善良な常駐先もあります。

必ずしも客先常駐全てが劣悪な環境で偽装請負をしているとは断定できないのです。

大事なのは「自分のキャリアパス」をしっかりと持ち、目標などに向かって歩んでいくことが大切です。

自分の人生を送るための将来設計をしっかりと定め、それを実現するために努力を積み重ねていきましょう。