はじめに

ITIL(読み:アイティル、Information Technology Infrastructure Libraryの略)は、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティス集です。
ITサービスマネジメントとは、ITサービスを顧客が満足に使用できるよう安定稼働させるための技術・ビジネス両面での取り組み全般を指します。
このような業務を各社独自の方法で行うのではなく、何か指標となる考え方があるべきだと判断した英国政府機関により1989年に出版されました。
実在するIT企業やコンサルタントからノウハウを集めて書籍化された実践的なものであり、業界標準として広く社会的に認められています。
ITIL策定後、英国政府は民間企業との合弁会社「AXELOS」を設立して認定資格の実施を開始し、現在では多くのIT従事者が受験する人気資格となっています。
ここでは、その中でも特にポピュラーなITILファンデーション試験について難易度や合格率、おすすめの勉強方法を解説します。

ITILを取得するメリット

まずは、ITILファンデーション認定資格を取得することでどのようなメリットがあるのかを確認しましょう。

ITサービス従事者同士での共通言語を習得できる

ITILファンデーションは、英国政府が認定した公的資格であり、ITベンダーをはじめとした多くの企業で組織的に取得が推奨されています。
そのため、ITサービス従事者ならば持っていて当然といった位置付けの資格なのです。
結果、ITILにはいくつかの専門用語が出てきますが、業務の現場ではこれらの用語が当然のように飛び交います。
ITIL取得を通じて、知っておかなければならない共通言語を習得することが可能です。

参考となる先行事例の知識が身につく

システムに対して大きな改修、例えばOSの置き換えやバージョンアップを行うとき、まっさらな状態からのスタートでは検討に時間がかかります。
また、検討項目に漏れがないかやスケジュールの見積もりもこれで合っているのかどうか、不安に思うことでしょう。
ITILはこのような現場の混乱や不安を低減するために策定されたといっても過言ではありません。
参考にできる先行事例が多く掲載されているので、照らし合わせながら自分たちの計画を見直すことができます。
また検討内容を組織内、もしくは他部署や顧客に報告する際も、権威あるITILを引用することで説得力を上げることが可能です。

ITILのバージョン

書籍としてのITILはいくつかの項目に分かれており、これをシラバスと呼んでいます。
進化するITサービスに合わせて数年に1度シラバスのバージョン変更があり、それに合わせて認定試験もバージョンごとに設定されます。
直近では2019年にITIL3からITIL4のバージョン変更がありました。それぞれについてシラバスと認定資格スキームを確認してみましょう。
なお、古いバージョンは廃止されるわけではありません。認定資格としては有効なので用途に合わせて選ぶと良いでしょう。

ITIL3

ビジネスマンの手は、インターネットシステムグラフを指す。
ITIL3は2007年にリリースされました。ITサービスが配備されるまでのライフサイクルを1区切りとした5つの書籍から構成されます。
  • サービスストラテジ:事業目標に準じたITの役割と要件
  • サービスデザイン:戦略に即した効果的かつコストパフォーマンスの高いプロセス導入
  • サービストランジション:ビジネスニーズへの迅速な対応
  • サービスオペレーション:プロセスの開発と管理手法
  • 継続的サービス改善:ITサービスのコストと品質の測定方法
認定資格スキームは下記の通りです。上記のコア書籍について「この試験はこの本から出題される」という明確な区切りはなく、全てまんべんなく目を通す必要があります。

マスターレベルについては試験が存在せず、業務実績や面談によって認定可否を判断されます。
  • ITIL3 ファンデーション:入門レベル
  • ITIL3 インターメディエイト:中級レベル
  • ITIL3 エキスパート:上級レベル
  • ITIL3 マスター:最上位レベル


ITIL4

ITIL4は2019年にリリースされました。ITIL3からの変更点は大きく2つ、「ビジネス視点の拡大」と「モジュールベース化」です。
IT組織の目標はビジネス組織への貢献からITサービスの品質向上へと拡大され、ビジネス組織との協力を前提とし戦略部分の割合が増加しました。

また、コア書籍は従来のライフサイクルに基づいた構成から役割(モジュール)ベースの構成へと変更になります。
  • ITILの全体像(ITILファンデーション)
  • 作成・提供・サポート(ITILスペシャリスト)
  • 利害関係者の価値主導(ITILスペシャリスト)
  • ハイベロシティIT(ITILスペシャリスト)
  • 指示・計画・改善(ITILストラテジスト)
  • デジタル&IT戦略(ITILリーダー)
また、認定資格スキームは下記のようになっています。上記コア書籍とマッピングするように変更され、かっこ書き内の試験内容に対応しています。

このうち、マネージングプロフェッショナルはファンデーション・スペシャリスト・ストラテジストに合格することで取得が可能です。
ストラテジックリーダーはファンデーション・リーダー・ストラテジストに合格すると取得できます。

最上級のマスターは、ITIL3と同様に試験ではなく業務実績や面談により認定可否が判断されます。
  • ITIL4 ファンデーション:入門レベル
  • ITIL4 スペシャリスト:運用技術者向け中級
  • ITIL4 ストラテジスト:全体統括者向け中級
  • ITIL4 マネージングプロフェッショナル:全体統括者向け上級
  • ITIL4 リーダー:戦略立案者向け中級
  • ITIL4 ストラテジックリーダー:戦略立案者向け上級
  • ITIL4 マスター:最上位レベル


ITILファンデーションの難易度・合格率

ITILファンデーション認定試験の難易度や合格率はどの程度なのか見てみましょう。

難易度

ここまで見てきた通り、ITILファンデーションはITIL認定資格スキームの中でも最下位レベルである入門クラスに位置付けられます。
ITサービス従事者ならば知っていて当然の知識が問われることもあり、難易度はそこまで高くありません
また、試験は60分間で選択問題40問のみ、65%(26問)以上正解で合格なので、ボリュームの面でもそこまで苦労しないでしょう。
シラバスによれば20時間程度の学習時間があれば対策完了するため、多くの方が1週間から1ヶ月の間に合格できています。

合格率

ITILファンデーションの合格率は非公開ですが、50%〜60%と見込まれています。同等レベルといわれるITパスポートやCCENTの合格率からの予測値です。
難易度の割に合格率がそこまで高くないのは、対策期間の見立てを誤ることが多いためといわれています。
2週間あれば対策できると見込んでいても、業務やプライベートとの兼ね合いで思ったほど勉強時間が確保できないものです。
あらかじめ余裕を持って学習計画を立てるように心がけましょう。

受験方法

ITILファンデーションは近くのテストセンターで受験できます。受験方法についてまとめました。

受験料は?

ITILのバージョン変更に伴い、今後変更される可能性もありますが、おおむね4万円を超えると見ておきましょう。
有効期限の縛りはなく、一度取得すれば失効しません。決して安くはない受験料なので、一発合格を目指したいところですね。

申込:ピアソンVUEから

申込方法は2種類あり、1つ目はピアソンVUEから申し込む方法です。
試験プログラムの検索で「ITILファンデーション」と入力し、受験できるテストセンターを探してみましょう。

申込:プロメトリックから

プロメトリックから申し込むこともできます。
オンライン・電話のいずれでも申し込み可能です。

ITILファンデーション試験内容

試験の出題範囲や傾向も確認してみましょう。

出題範囲は?

ITILのシラバスの各項目からまんべんなく出題されます。
どれかの項目に集中するということはないので、実際に全てのページを一読しておくべきです。
公式ページにシラバスの要約が掲載されているので、まずはざっくりと確認してみると良いでしょう。

過去問の傾向は?

実際の過去問題についても、公式ページから確認することができます。

また、実際に受験した人の声を聞くと、下記のような意見があります。
  • ひねった問題や引っ掛け問題は殆どなく、用語の純粋な意味を問われる
  • 用語だけ丸暗記でなく、全体像を把握しているかどうかが試される
  • 正しいものを選ぶ問題では、不正解の選択肢は明らかに違うとすぐわかるので悩まずに済む
意地悪な問題は少ないと見られますが、丸暗記に頼らず、図解を自分で描けるレベルでの理解をしておくと安心ですね。

おすすめの勉強方法

ここからは、ITILファンデーションに合格するためのおすすめの勉強方法を紹介します。
なおシラバスの読み込みは不可欠なので、それを済ませていることが大前提です。

学習サイトでの問題演習

ITILファンデーションの受験者向けに模擬試験問題を提供しているサイトがあるので、これらを活用するのも良いでしょう。
特にCramMediaは的中率が高く、受験者から一定の評価を得ています。
  • CramMediaIT系資格の取得に特化した対策サイトです。有料ですがITILの模擬試験問題を利用できます。
  • ping-t:こちらもIT資格取得をサポートするサイトで、無料のITIL模擬試験を利用できます。


ITIL合格のためにおすすめの参考書①

ITIL はじめの一歩 スッキリわかるITILの基本と業務改善のしくみ(翔泳社)
まずはITILについて基本を知りたい方におすすめです。ストーリー仕立てでケーススタディを交えてわかりやすく説明しています。
ITILファンデーションの受験予定者に限らず、会社でITILの導入が決まった方や、既に取得済みの場合の復習用としても役立つと高評価です。

ITIL合格のためにおすすめの参考書②

IT Service Management教科書 ITIL ファンデーション シラバス2011(翔泳社)
ITIL3のシラバスをわかりやすく解説している参考書です。
巻末に模擬問題もついており、実際の試験問題よりも若干レベルが高いので、これを解ければ合格圏内といえるでしょう。
基本的には本体シラバスの読み込みと過去問題だけで十分といわれるITILファンデーション対策ですが、万全を期すためにあると安心な一冊です。

ITIL合格のためにおすすめの参考書③

ITIL4の対策本はまだあまりないので、このシラバスを読むのが良いでしょう。
Kindle限定ですが、AXELOS社から公式に出版された日本語版です。
これに加え、先述の公式ページ上のサンプル問題を解けば最低限の対策ができます。

まとめ

ITILファンデーション試験について、取得のメリットや学習方法を紹介しました。
ITサービス従事者にとって基本となる試験なので、未取得の方はぜひ取得を目指してください。
取得済みの方も、ITILにはさらに上級レベルが用意されているので、目指してみるとキャリアアップに繋がるかもしれませんね。
バージョンや試験概要については変更の可能性があるため、公式ページでも最新情報をご確認ください。