フリーランスエンジニアとして仕事を受注する上で重要なのが契約形態の違いです。

そこで今回は準委任契約と請負契約の定義やそれぞれの違いについて解説していきます。

契約内容でチェックすべきポイントや契約書の注意点も確認していきましょう。


準委任契約とは

民法上の定義

民法第656条に定められている通り、準委任契約は法律行為以外の事務を委託する契約のことです。
この事務という仕事にはシステム開発などのIT業務も該当します。
SES(システムエンジニアリングサービス)契約という呼ばれ方をしているのを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。


仕事をした時間に対し報酬が支払われる

準委任契約ではシステム開発などの事務の仕事をした時間に対して報酬が支払われます。
報酬は一定期間ごとに支払われ、1カ月ごととなるケースが一般的です。


2017年の民法改正で「成果完成型」の準委任契約も可能に

従来は準委任契約といえば仕事をした時間や工数を基にして報酬が支払われる契約である「履行割合型」のみでしたが、2017年の民法改正により「成果完成型」の契約も可能になりました。
「成果完成型」は仕事が完成したら受任者に報酬を請求できる契約のことで請負契約と似ています。
仕事の完成を義務付けられていないため仮に仕事が完成しなくても債務不履行責任を問われることはありません。
なお2017年5月26日の改正民法は2020年4月1日より施行される予定となっています。


準委任契約の義務

仕事を完成させる義務はないが「善管注意義務」がある

準委任契約には民法第644条で「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」ことが定められる「善管注意義務」があります。
これは受任者の専門的な能力、社会的な地位を考慮したときに通常期待される注意義務のことで、この義務を怠らず仕事のスピードや仕事内容などに問題がないよう取り組むことが民法で定められているのです。


「報告義務」がある

受任者は委任者に対して仕事の進捗情報や結果に関する「報告義務」もあります。
後述する請負契約にはこの報告義務はありません。


請負契約とは

民法上の定義

請負契約は民法632条に定められており、受注者が仕事を完成させることを約束し、発注者が仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約のことをいいます。


成果物を納品すると報酬が支払われる

請負契約では完成した成果物を納品し、発注者の検収を受けることで報酬が支払われます。
受注者は成果物を完成させて納品する「完成責任」がありこの責任を全うすることが求められるのです。


成果物を完成させる義務があり「瑕疵担保責任」がある

請負契約において納品した成果物に瑕疵、つまりシステムにバグがあったり欠陥があったりする場合、発注者は「修補請求」をするかあるいは受注者へ「損害賠償請求」ができるという決まりがあります。
この「瑕疵担保責任」が定められているのも請負契約の大きな特徴です。


2017年の民法改正で変わった点

「瑕疵担保責任」から「契約不適合」へ

2017年の民放改正では「瑕疵」という言葉は使用されなくなり、改正後は「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」、すなわち契約不適合という言葉に変更となりました。
こちらは言葉が変更になるだけで事実上内容はほぼ変わりません。


「契約不適合責任」の責任追及の期間

受注者が責任を追及されるのは発注者がシステムのバグ(欠陥)を知ったときから1年以内となります。
ただしシステムの引渡しから最大5年以内という上限が付きます。


「契約不適合」の場合「代金減額請求」が可能に

納品したシステムにバグが多い場合、「契約不適合」つまり「瑕疵」がある状態であると認められます。
このような場合、請負契約では前述したとおり「修補請求」「損害賠償請求」と後述する「契約の解除」が可能です。
これに加えて改正後はバグの程度により発注者が受注者に対して「代金減額請求」をすることが可能になります。


修補に過分の費用がかかる場合には「修補請求」が不可能に

改正前の民法ではシステムのバグが重大である場合、修補に過分な費用がかかる場合でも発注者は受注者に対して「修補請求」をすることができました。
2020年4月の改正民法の施行により、上記のような場合はシステムの「修補請求」ができなくなります。
つまりフリーランスの負担が軽くなったといえるでしょう。


開発フェーズごとに適した契約の種類が異なる

要件定義や基本設計などは準委任契約

要件定義や基本設計、システム外部設計、システムテストや受け入れ、導入支援については準委任契約が適しているといえます。
要件定義などは調整業務も多くやるべきことも決まっていないため具体的な作業を明文化しにくいのがその理由です。


詳細設計やテスト工程などは請負契約

システム外部設計や内部設計・プログラミング、システムテストは請負契約が向いています。

ソフトウェア開発を行う工程・範囲が明確であり成果物として納品しやすいためです。


アジャイル開発の場合はすべて準委任契約という場合も

上記のように大規模なウォーターフォール型の開発であれば、準委任契約と請負契約が混在しているケースもあります。

しかしアジャイル開発の場合はすべて準委任契約というケースもみられるのが現状です。


準委任契約と請負契約では再委託の可否が異なる

原則として準委任契約は再委託ができない

受注者が下請け業者に仕事を依頼することを再委託といいます。
原則として請負契約では再委託が可能ですが、準委任契約では再委託はできません。


特約を設ければ準委任契約でも再委託は可能

ただし準委任契約でも特約を設けることで受注者が下請け業者に再委託することは可能です。

再委託をしたい場合は発注者と相談するといいでしょう。


契約の途中解除

準委任契約では委任者も受任者もいつでも可能

民法第651条第1項によると準委任契約ではどのタイミングであっても委任者からでも、受任者からでも、どちらからでも自由に契約の解除が可能です。
ただし委任者と受任者のどちらかが不利になるような時期に契約を解除したときには、やむをえない事情がある場合を除き損害賠償をしなければなりません。
例えば既に受任者が業務を開始した後のタイミングで委任者が契約解除を申し入れた場合、損害賠償につながることもあります。


請負契約では発注者から契約解除される可能性がある

請負契約では受注者が納品前する前のタイミングで、発注者から損害を賠償することによって契約を解除される可能性があります。
民法641条に定められている通り、発注者からのみ契約解除が可能です。
受注者が納品した後のタイミングであっても民法635条にあるように、受注者が納品した成果物に瑕疵があった場合には発注者から契約解除される可能性があります。


準委任契約のメリット

準委任契約は収入が安定している

準委任契約の方が請負契約よりも報酬を請求しやすいといわれます。
請負契約のような成果報酬型ではなく納品物が仮に完成しなかったとしても事務処理を適切に行っていれば対価を請求できるため、定期的に収入が得られるので請負契約のように報酬を得るまでの時間が長くなってしまう心配もありません。
もし受任者に起因しない理由で契約解除となった場合、受任者には事務処理を行った割合に応じた報酬請求権があります。
このような理由から準委任契約は請負契約に比べて収入が安定しているといわれます。


請負契約は収入が不安定な傾向

一方、請負契約は成果物が完成しないことには報酬が支払われません。
また成果物は発注者の意図した内容となっていなければならず、発注者の意図と違うものを納品した場合には報酬請求権も発生しないのです。
ただ2017年の民法改正により成果物が未完成であっても発注者が利益を得られる内容であった場合や、成果物が未完成となってしまった原因によっては受注者に「報酬請求権」が認められるようになりました。
しかし報酬を請求できる権利があることと発注者が支払ってくれるかどうかは別問題です。
開発期間が長くなってしまうと報酬を得るまでの時間が長くなってしまい、フリーランスエンジニアにとっては少々厳しく感じられるかもしれません。


準委任契約には「瑕疵担保責任」がない

準委任契約には「瑕疵担保責任」がありません。
万が一、システム開発で担当した部分でエラーが発生してしまったとしてもそれを修正する義務はありません。
しかし準委任契約には「善管注意義務」があるため、しかるべき注意を払って仕事を行わない場合は損害賠償請求もしくは契約解除の対象になりますので留意しましょう。


スケジュールは受注側が決める

スケジュールに限らず委託者には「指揮命令権」がないため受託者に対し細かい作業指示を行うことはできません。
これは準委任契約・請負契約に共通する特徴で自由度が高い分、自己管理能力が問われますがメリットととらえる人も多いでしょう。


契約内容や契約書のチェックポイント

契約の形態を明確にする

フリーランス(個人事業主)の場合は準委託契約か請負契約のいずれかに契約が該当します。
その契約が準委任契約なのか請負契約なのかをまずは明確にしましょう。
当たり前のことと思われるかもしれませんが、契約形態そのものをよく確認しないでトラブルになるケースが多いのです。
またよく準委任契約や請負契約と混同されますが、業務委託は民法上で規定された契約態様ではありません。
実務の現場で使われる言葉であるため定義はあいまいであり、契約書次第で内容が変わります。
「業務委託契約を結ぶ」ときには仕事の範囲や契約書の内容をよく確認するようにしましょう。
さらに派遣契約との違いや偽装請負の問題も知っておくべきでしょう。
準委任契約・請負契約では受託者から指揮・命令を受けません。
委託者から指揮・命令を受けて働くのは派遣契約にあたります。
準委任契約または請負契約を結んだのに委託者から指揮・命令を受けて働いた場合、偽装請負とみなされてペナルティを受けることもありますので注意しましょう。
また準委任契約または請負契約なのに委託者から指揮・命令を受けるような契約内容でないかも確認しておきましょう。


「無償契約」でないことを確認

準委任契約は特別な契約内容がない場合、原則として報酬を請求できません。
つまり「無償契約」ということになってしまいます。
報酬が発生するということをきちんと契約書に記載しておきましょう。


報酬と支払い期日

どのような作業内容・成果物に対していくらの報酬が発生するのかも明確にしておくべきポイントです。
報酬の支払い期日や前払い金の有無、支払方法は一括払いもしくは分割払いなのかなども定めておきます。
さらには消費税込みの金額であるのか税抜きの金額であるのか、報酬の支払いを銀行振込にする場合に手数料をどちらが負担するのかについても決めておきましょう。
見積書に単価と工数を記載することも当然ではありますが記載しないことで紛争のもととなるケースが多くみられるため注意が必要です。


契約期間についても記載する

請負契約の場合は不要ですが準委任契約の場合には一日当たり何時間稼働するかについて記載しておきます。


「瑕疵担保責任」の有無を記載する

「瑕疵担保責任」がある場合は請負契約、ない場合は準委任契約となります。
ここをあいまいにするとやはりトラブルのもととなりますので必ず記載しましょう。


損害賠償義務

契約に違反した場合の損害賠償義務について記載します。

責任の範囲や責任を負う期間、損害賠償金の上限金額などを必ず確認しておきましょう。


「報告義務」の有無を記載する

作業の進み具合に関する「報告義務」を契約に記載するのであれば準委任契約、記載しないのであれば請負契約となります。


仕事内容は具体的に

自分の仕事の範囲は契約書に明記し、範囲外の仕事を請け負わないようにしましょう。


追加報酬について

システム開発において仕様変更や作業の手戻り、やり直しなどに伴い追加作業が発生することも珍しくありません。

トラブルを避けるためにも追加報酬について決めておくことをおすすめします。
また報酬の支払いが遅れた場合に遅延損害金を支払ってもらうような取り決めをしておくことも大切です。


費用負担

交通費などの仕事でかかった諸経費を委託者に負担してもらうように契約書に記しておきましょう。
口約束ではなく書面に残すことが大切です。


知的財産権について

仕事をする上で生じた所有権、著作権といった知的財産権について、受託者と委託者のどちらが有するのかについても決めておきます。権利が受託者に帰属するのであれば請負契約、委託者に帰属するのであれば準委任契約となります。


機密保持義務

機密保持義務については受託者が委託者の機密を第三者に漏らさないという義務だけではなく、委託者が受託者に対しても機密保持義務があることを書いておくべきでしょう。


総括

フリーランスエンジニアにとって避けては通れない契約形態について解説してきました。
自分の身を守るためにも準委任契約と請負契約の違いをしっかり認識して契約段階で大事なポイントを確認するように心がけましょう。